クリメントヴァとムンタギロフが息の合ったパートナー・シップをみせた『ジゼル』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団

『ジゼル』コラリ,ペロー、プティパ:振付、コンスタンチン・セルゲーエフ:改訂振付

新国立劇場バレエ団がレパートリーとしている『ジゼル』は、コンスタンチン・セルゲイエフ版。オーソドックスな演出・振付であり、ロマンティック・バレエらしい雰囲気のあるヴァージョンである。
今回は長田佳世、ダリア・クリメントヴァ、米沢唯のジゼル、菅野英男、ワディム・ムンタギロフ、厚地康雄のアルベルト、というトリプルキャストが組まれていた。新国立劇場初出演となるクリメントヴァとムンタギロフはイングリッシュ・ナショナル・バレエのペアだ。二人とも昨年2月に行われたアリーナ・コジョカル・ドリーム・プロジェクトで来日し、『くるみ割り人形』のグラン・パ・ド・ドゥほかを踊ったので、ご記憶の方も多いと思う。
クリメントヴァはチェコ出身でプラハのコンセルバトワールで学び,チェコ国立歌劇場で踊り,当時ディレクターだったデレク・ディーンに招かれ、イングリッシュ・ナショナル・バレエ団に入団した。ワディム・ムンタギロフはペルミ・バレエ学校に学び、ロイヤル・バレエ・スクールからイングリッシュ・ナショナル・バレエ団に入ったそうだ。イングリッシュ・ナショナル・バレエは、このシーズンから、英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルだったタマラ・ロホが芸術監督となり、話題を集めた。それまではかつてアレッサンドラ・フェリのジュリエットとロミオを踊り、人気を集めたウェイン・イーグリングが芸術監督として指導し、レベルアップしたのだ、と聞く。

クリメントヴアは一幕の初めは少々固い感じがしたが、後半に徐々に実力を発揮。マイムも大きく滑らかで音楽もそつなくとらえているし、ラインもきれいだった。一方、ムンタギロフのアルベルトは、じつに素直な踊り。長身の上、手脚が長く、やや小顔でノーブルな雰囲気も持ち合わせる、と人気を集めるほぼすべての条件をクリアしている。おまけにバランスがよく、踊りが柔らかい。表現力もしかっりしていて、クリメントヴアとのパートナーシップも柔軟に対応しており、じつに良い雰囲気だった。次代のスーパー・スター候補の一人であろう。これからもう少し、いろいろなパートナーとも積極的に踊って、様々な感受性と触れ合い、自らの感受性も細部にわたって磨いていくとさらに才能が花開くのではないか。また例えば、バリシニコフやマラーホフが踊ったアルベルトの、直接目に見えない部分が訴えているものを感得して大いに活躍して欲しい、と思った。
今や絶滅危惧種的存在になりつつあるクラシック・バレエの絶対的ダンサーを目指して欲しいが、現代はそんな孤絶の存在は許されないだろう。だからいっそう、時にはコンテンポラリー・ダンスを踊っても、クラシック・バレエの揺るぎないスタイルを保持することができるダンサーとなってもらいたい。心配なのはペンギンだけではないのである。
ミルタは堀口純、ハンスは古川和則、ペザントのパ・ド・ドゥは米沢唯と福田圭吾だった。新国立劇場バレエ団も次第にダンサーの層が厚くなり、肌理の細かい舞台が創れるようになった。ポスト・ビントレーにもさらなる発展を期待したい。
(2013年2月20日 新国立劇場 オペラパレス)

新国立劇場バレエ団「ジゼル」クリメントヴァ、ムンタギロフ 撮影:瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団「ジゼル」
撮影:瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団「ジゼル」クリメントヴァ 撮影:瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団「ジゼル」
撮影:瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団「ジゼル」クリメントヴァ、ムンタギロフ 撮影:瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団「ジゼル」
撮影:瀬戸秀美

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