音楽に乗ってダイナミックに踊られたバランシン、ビントレー、サープのトリプルビル
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掲載
ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
新国立劇場バレエ団「ダイナミック・ダンス」
『コンチェルト・バロッコ』ジョージ・バレンシン:振付、『テイク・ファイヴ』デヴィッド・ビントレー:振付、『イン・ジ・アッパールーム』トワイラ・サープ:振付
2013年の新春を飾る新国立劇場ダンス公演はダイナミック・ダンスで、ヨハン・セバスチャン・バッハ/ジョージ・バランシンの『コンチェルト・バロッコ』、ディヴ・ブルーベック、ポール・デスモンド/デヴィッド・ビントレー『テイク・ファイブ』、フィリップ・グラス/トワイラ・サープの『イン・ジ・アッパールーム』のトリプルビルだった。
『コンチェルト・バロッコ』は、バッハを整然とシンメトリーで踊る第一楽章、男性のプリンシパル(山本隆之)が入って二人の女性プリンシパル(小野絢子、長田佳世)と踊る第二楽章、アップテンポでフィナーレへと向かう第三楽章、と全体の構成はいたって平凡というか定番的だが、動きの造形はさすがにバランシンだった。特に刻々とリズムを刻み形から形へと流麗に変化する動きの流れは、奇をてらうものは何もないが、格調ある形から初々しもの、あるいは微笑ましいもの、と生命の発芽を楽しむかのように自在だ。そしてそれらは決していわゆるキメの形に現れるのではなく、それぞれの動きそのものの中に現れて観客に微笑みかけている。
『テイク・ファイブ』は両親がジャズ奏者であり、父はバンドのリーダーだったというビントレー作品。ビントレーのジャズ作品といえばまず、『ナッツクラッカー・スウィーティーズ』を思い浮かべる。チャイコフスキーの音楽をジャズ調にアレンジしたデューク・エリントンの演奏が絶品=スウィーティーズだった。音楽だけでなく『くるみ割り人形』の世界からこうした瀟酒な世界を導き出すことができる、ビントレーの才能にはほんとうに感服した。また私は未見だが、『オルフェ組曲』をやはりデューク・エリントンの曲を使って、「黄泉の国」を観客の眼前に浮かび上がらせた名舞台もあると聞く。幼い頃のビントレーは、父のバンドが練習する時はドラムスの隣が彼の指定席だったとプログラムにコメントしているが、ほとんど理想的なジャズ環境にも恵まれていたのだろう。
撮影/鹿摩隆司
ビントレーはブルーベックの奇数拍子をステップに表し、軽快な動きを創る。湯川麻美子(米沢唯とW)と4人の男性ダンサーという構成で相手が4人だったり1人だったりと変化をつけた。あとは3人、1人、2人、4人、ラストは全員として6曲を振付けた。お馴染みの曲だけによく音楽のスピリットがダンサーたちに行き渡っているのが感じられた。フライング・ソロは八幡顕光(福田圭吾とW)、トゥー・ステップは本島美和と厚地康雄(小野絢子、福岡雄大とW)だった。
撮影/鹿摩隆司
3曲目の『イン・ジ・アッパールーム』はフィリップ・グラスのミニマルな曲にトワイラ・サープが振付けたもの。
トワイラ・サープはドライヴイン・シアターを経営していた両親の元に生まれた。幼い頃は異能といってもいいような能力をみせた。たまたまドライヴイン・シアターに併設されていた娯楽施設にさまざまな器具が備えられていたこともあり、バレエ、モダンダンス、ジャズダンス、タップ・ダンスはもちろん、さらにはピアノ、ドラム、カスタネット、フラメンコ、バトントワリング、ヴァイオリンなどを、非常にタイトなスケジュールを組んでマスターしてしまったそうだ。
それは「ダンサーはアスリートであれ」、という彼女の言葉や、後日、サープが出版した書籍のタイトルが『クリエイティヴな習慣』だったことからも頷ける。そして彼女はバレエとモダンダンスのテクニックをアメリカ的な豊かな方法として構成し、自由闊達で魅力的なダンス・スタイルを創った。
それが最も感じられる作品のひとつが『イン・ジ・アッパールーム』だろう。スタンパーとも呼ばれる動きを創ったスニーカーを履いたシャープなダンスを展開するグループと、切れ味のいいバレエのテクニックを駆使するグループが競いあうように踊ってコントラストを見せる。ミニマル・ミュージックが流れ、スモークが焚かれるなか盛り上がり、やがて天空の部屋へと至る、かのようなエキサイティングな舞台だった。
(2013年1月24日 新国立劇場 中劇場)
撮影/鹿摩隆司
撮影/鹿摩隆司
撮影/鹿摩隆司
撮影/鹿摩隆司