世界文化賞を受賞して、ダンサー森下洋子の積極的な姿勢が際立った舞台

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

松山バレエ団

新『白鳥の湖』清水哲太郎:構想・構成・台本・演出・振付

毎年恒例となっている、松山バレエ団新春公演の新『白鳥の湖』。今回は設立65周年と森下洋子の高松宮殿下記念世界文化賞の受賞とトリプルのお祝いが重なった。

森下洋子のオデット、オディールと鈴木正彦のジークフリードというキャストで観ることができた。森下洋子はすでに還暦をいく年か過ぎたはずだが、未だにクラシック・バレエの全幕を堂々と主演していることには、ほんとうに驚かされる。アリシア・アロンソやマイヤ・プリセツカヤもかなりの高齢になってからも舞台にたったことで知られるが、クラシック・バレエの全幕の主演は、とうの昔に踊らなくなっている。その意味でも、比較的体力が弱いとされる日本人の森下洋子の存在はまさに驚異的だ。調べたわけではないが、それはおそらく世界一であり、ふたたびこのようなダンサーか出現することは当分ないのではなかろうか。
キャリアを重ねて、さすがに動きには以前の明快さはやや弱まったが、立ち姿は軸がきちっと決まっていて揺るぎない。ピルエットも正確そのものだ。身長の割には大きな手を表情豊かに使った表現力にはいささかの衰えもない。パートナーにも助けられて踊っていたが、黒鳥のパ・ド・ドゥでは見事にヴァリエーションも踊りきった。基礎の忠実な繰り返しにより、しっかりと時間を掛けて作り上げられた身体のおそるべき強靭な耐用力である。ジークフリード役の鈴木正彦も一生懸命支えつつ踊っており、周囲の協力も欠かせないのは確かだが、もちろん、それ以上の価値を舞台の上に日々創りだしているのである。

松山バレエ団 新『白鳥の湖』森下洋子

振付、演出も独自色を出そうとして種々意欲的試みが行われている。ディヴェルティスマンも全く新たな振付が行われている。そのチャレンジは良しとするが、チャイコフスキーの音楽は振付と共に創られており、もちろん、全体としての作品性が整えられている。後年、新しいヴァージョンにアダプトするためには、物語の進行と振付の効果などと音楽の整合性に配慮する必要があるだろう。
昨年の世界文化賞受賞を記に、新年に際して森下洋子のダンサーとしての積極的な姿勢が、一際、際立つ公演だった。
(2013年1月25日 NHKホール)

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