「動物の◯(えん)」をダンスで楽しみ確かめた珍しいキノコ舞踊団の最新作

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

珍しいキノコ舞踊団

『動物の◯(えん)』伊藤千枝:振付・構成・演出

珍しいキノコ舞踊団の新作『動物の◯』を観た。
珍しいキノコ舞踊団の公演は毎回、会場にも上演作品に合わせた工夫を凝らしているが、今回は原宿のVACANTだった。まるで今の原宿の街の雰囲気と繋がっているようなライブスペースの上演で、ワンドリンク付きの自由席。

会場がオープンすると伊藤千枝始め、キノコ・ダンサーたちが、お酌、ではなくドリンクをサービスで運んでくれたりして、ダンサーと観客たちの間にリラックス・ムードを作っていた。さらに上演前恒例の鑑賞の御注意でも「見にくかったり疲れたら、あるいはお手洗いへもお静かに席を移動していただいて結構です。また、ダンサーが客席に入って踊りますが、驚いて引かないないで温かくみてください」といったとてもフレシキブルな鑑賞のお薦めがあった。ダンサーが客席の至近距離で踊る、という条件を生かして充分に楽しんでもらおう、という柔軟な姿勢が気持ち良い交流をもたらしている。

珍しいキノコ舞踊団『動物の◯(えん)』 撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

最近は開演にちょっとでも遅れると(もちろん遅れる方が悪いのだが)、不鮮明なモニターで観させられ、次の幕まで入れてもらえなかったり、「一体、何のために2重扉にしているのか」と思うことある。まあ彼らは彼らなりに管理しているのだが、劇場はあらゆる人が集まる一種のお祭り広場である。悪意のない劇場を愛する人たちをあまりに窮屈に管理するのはどうかと思う。日本人的なオートマチックな潔癖症を感じてしまう。
その点キノコ舞踊団は「あらゆる空間で立ち上がるダンスを観客とともに体験し、それぞれの場所、それぞれの身体が持っているダンスを探り、楽しむこと」を主題としているカンパニーらしい上演方針で、たいへん好感がもてる。

パフォーマンスの始まりは、手作りの素材を映写して、映画のオープニングタイトルを作り、いかにもらしい音楽にのせて流した。これがまた実にそれらしく感じられる。実際にはなんだか夏休みの宿題の発表会みたいなのだが、映画館の座席で期待に胸を膨らませる時の高揚感を思い起こした。
とにかく、小スペースを巧み生かしたパフォーマンスで、様々な工夫を凝らしたダンスが次々と連続して展開する。必ずしもすべてがおもしろいというわけではないが、連想が豊富なので一生懸命ついて行くだけでも楽しいのだ。小スペースだから、両サイドのスペースを使っていつもの楽しいオブジェ的小道具を置いてちょっとしたお芝居的な動きをみせたり、キラキラした飾りの出入り口にしていたり、目にも温かさが残る。中には妖艶なダンスもあって、キノコ舞踊団の成長ぶりに改めて感慨をもようしてしまったりした。歌も踊りもリズムもすべてが「キノコの舞踊」であって、なるほどこうやって繋がりを確かめ強くする方法もあるのか、と感心し、「みんなの○」をたっぷりと楽しんで終わりになった。
(2012年12月14日 原宿VACANT)

珍しいキノコ舞踊団『動物の◯(えん)』 撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

珍しいキノコ舞踊団『動物の◯(えん)』 撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

珍しいキノコ舞踊団『動物の◯(えん)』 撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

珍しいキノコ舞踊団『動物の◯(えん)』 撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

撮影/片岡陽太(Yohya Kataoka)

ページの先頭へ戻る