上海小顔美人の範 暁楓と甘い雰囲気を放つ呉 虎生が踊った上海バレエ『白鳥の湖』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

上海バレエ団

『白鳥の湖』ディレク・ディーン:振付・演出、辛麗麗:芸術監督

私は、2007年に上海バレエ団を取材し、今回『白鳥の湖』のジークフリート王子を踊ったヴー・フーション(呉 虎生)にもインタビューしていたので、この来日公演は興味深かった。
上海は、今は人口2,400万人を擁する世界有数の最先端都市だが、海外租界が華やかだった1930〜40年代には様々なバレエ活動が行われていた。特に知られているのはマーゴ・フォンテーンがこの地でゴンチャロフなどのロシアのバレエ教師に学んだこと、革命を逃れた亡命ロシア人舞踊家を中心としてシャンハイ・バレエ・リュスが活動を展開していたこと、そしてそこで活動していた小牧正英が大戦後に帰国して、日本のバレエ発展に大きく寄与したことなどだろう。そのシャンハイ・バレエ・リュスの中心地だったライセニアム・シアターも残っていて、微かだが当時の面影を覗かせている。

上海バレエ団の『白鳥の湖』は、英国ロイヤル・バレエ団で踊り、イングリッショ・ナショナル・バレエ団の芸術監督を務めたディレク・ディーン版だった。
主役のオデット/オディールを踊ったファン・ショウフン(範 暁楓)は、すらっとした細身の「上海小顔美人」で、プロポーションはロシアのダンサーと比べてもひけをとらない。テクニックもかなりの水準で、白鳥のダンサーとしてほとんど申し分なかった。ジークフリート王子のヴー・フーションは、07年に上海バレエ団の本部でインタビューした際も、一際、目を惹く魅力的な甘い雰囲気を持っていた。いかにも身体が柔軟そうで、それを生かして悠々と踊ってみせた。コール・ド・バレエも破綻はなく水準は高かった。

上海バレエ団「白鳥の湖」 撮影/山本成夫

撮影/山本成夫

家庭教師が登場し狂言回し的に演じるが、道化やベンノの役はない。その家庭教師の衣装がちょっと中国の文人風に見えたり、ロットバルトか弁髪が似合いそうだ、と我々はいろいろ感じてしまうのだが、それはこちらの思い込みであり、作品の本質とは関係ない。ただどことなく、コール・ド・バレエなどについては<バレエ芸術>への憧れが感じられなかった。やはり中国には中華思想があって、バレエだからといって特別視する感覚はないのかも知れない。あるいは、中国人ダンサーは進路を決められてからバレエに励むケースが多いために、そのように感じられるのかも知れない。
このバレエ団は、バレエ『白毛女』を制作した団体が母体となって生まれたこともあり、中国の題材に基づいた創作バレエも多く上演されている。映画化されて中国版『ロミオとジュリエット』と評された『ザ・バタフライ・ラヴァーズー梁山泊と祝英台』『花様年華』『マルコポーロ・ラストミッション』などがそれだ。
私が取材した際には、ヴー・フーションは「もうすぐニューヨークの国際バレエコンクールに参加します。海外コンクールは初めてだけど頑張ります」といっていたが、見事に銀賞と特別賞を獲得していた。
(2012年12月2日 Bunkamura オーチャードホール)

上海バレエ団「白鳥の湖」 撮影/山本成夫

撮影/山本成夫

上海バレエ団「白鳥の湖」 撮影/山本成夫

撮影/山本成夫

上海バレエ団「白鳥の湖」 撮影/山本成夫

撮影/山本成夫

上海バレエ団「白鳥の湖」 撮影/山本成夫

撮影/山本成夫

上海バレエ団「白鳥の湖」 撮影/山本成夫

撮影/山本成夫

上海バレエ団「白鳥の湖」 撮影/山本成夫

撮影/山本成夫

上海バレエ団「白鳥の湖」 撮影/山本成夫

撮影/山本成夫

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