ミルピエ、ガット、フォーサイス作品が上演された、さいたま芸術劇場開館20周年記念公演

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

パンジャマン・ミルピエ L.A.Dance Project

『リフレクションズ』パンジャマン・ミルピエ:振付、『モーガンズ・ラスト・チャグ』エマニュエル・ガット:振付、『クインテット』ウィリアム・フォーサイス:振付

彩の国さいたま芸術劇場は開館20周年を迎えて、パンジャマン・ミルピエ L.A. Dance Projectを招聘し、ミルピエ、ガット、フォーサイスの3作品を上演した。とりわけフォーサイス振付の『クインテット』は、さいたま芸術劇場が開館した1994年に、フランクフルト・バレエ団により上演された作品である。
ミルピエは周知のように、今年から37歳の若さでパリ・オペラ座の芸術監督に就任した。L..A.Dance Projectは、ニューヨーク・シティ・バレエ団でプリンシパルとして踊っていたミルピエが2011年にダンサーを引退し、12年にロサンジェルスで設立したカンパニーだ。今回公演は10月にニュ−ヨークのBAMで上演した後のツアー。

1作目はミルピエ振付の『リフレクションズ』だった。舞台美術、衣裳デザインはアメリカの現代美術家、バーバラ・クルーガー。音楽はピューリッツァー賞受賞の作曲家で、トワイラ・サープ、ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス、NLDT、パリ・オペラ座などのダンスにも音楽が使われているデイヴィッド・ラング。
まず、真っ赤な地に白抜きのSTAYという巨大文字を貼り付けた強烈な背景、そしてフロアに貼付けられた同様の文字THINK OF ME THINK OF YOUが観客に迫ってくる。その舞台で男と女のパ・ド・ドゥが始まった。緩やかな動きで二人が親和して終わると、男のソロに変わる。人間が小粒に見える。巨大な建築物----大ショッピングセンターに人間がいるような現代的状況をポップアート風に象徴している、と見える。
曲のテンポが速やまって男女のパ・ド・ドゥとなる。一瞬、激しい逆光が観客席を照らした。消えるとSTAYがGOという巨大文字に変わっていた。男性二人や女性二人が踊る時には無音となる。
ポップアートの背景の効果は抜群で、舞台のフレームは否定され、現実の大都会の空間に迷い込んだような幻想的錯覚に陥った。

「リフレクションズ」photo: Arnold Groeschel

「リフレクションズ」photo: Arnold Groeschel

次はガット振付の『モーガンズ・ラスト・チャグ』。今度は男性4人に女性2人のダンサーが、赤、緑、黄色、黒など原色を配した衣装で踊る。
ミルピエの振付が幽かにクラシック・バレエを感じさせる都会的なものだったが、こちらはもっとラフな印象だ。6人のダンサーがランダムにしかし、豊かなヴァリエーションを持った展開をみせる。ダンサー同士が特定されたり、同じ動きが繰り返されることはほとんどない。ただ緑のトップと赤いパンツの女性が太ももを両手でたたく動作が時折ランダムに繰り返されるばかり。音楽はバッハ、ヘンリー・パーセルに、ベケットの戯曲『クラップ最後のテープ』の録音された台詞がところどころで被せられている。
次の動きに参加するダンサーが常に薄暗いホリゾントの中に控えていて、集団の動きをいつも見つめている。ダンスにとっては当たり前の光景だが、それがこのグループのダンスの特徴をだしているかのように、不思議な存在感が感じられたのだ。振付のエマニュエル・ガットはイスラエル出身で、南フランスのイストルを拠点に活動している。

フォーサイス振付の『クインテット』。ダナ・カスパーセンを始め、この作品を初演したダンサーたち5人が、振付協力としてクレジットされている。
女性2人と男性3人のクインテットが踊った。舞台には大型の照明が一機置かれているだけ。5人のダンサーがほぼ等間隔に腰を下ろしたり寝そべっている。それぞれのダンサーはバラバラでその様子からみても何の略脈もない。ただダンサーであるということと、がらんとした舞台風の空間に照明の機器が1台置かれているだけ。
ガットの作品がダンサーがランダムに動きながらもダンスとしての有機性を保つ意識を持って踊っていたのに対して、フォーサイス作品のダンサーたちは、明らかに断絶というかその現実が解体されている。ただ自分の動きを自分の意識によって踊っているに過ぎない。時折、偶然、そこで踊っているダンサーが自分の近辺で踊ることになれば、あまり興味なさそうではあるがささやかにコンタクトしてみるが、たちまち離れて自分自身の意識によって動く。だからそこに現れる形象はフォーメーションと呼びうる形態ではない。音楽は「イエスの血は決して私を見捨てたことはない」というギャビン・フライヤーズの歌が力なく繰り返されていた。現代の日常の中に潜んでいる断絶が、表現主義的手法により、くっきりと描き出されている。そして突然、幕が降りてダンスは終わった。終わりのない断絶もまた現実なのである。
(2014年11月8日 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)

「モーガンズ・ラスト・チャグ」photo: Arnold Groeschel

「モーガンズ・ラスト・チャグ」photo: Arnold Groeschel

「クインテット」photo: Arnold Groeschel

「クインテット」photo: Arnold Groeschel

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