悪魔に翻弄された哀しい恋を描いた新作バレエ、伊藤範子振付『ホフマンの恋』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

世田谷クラシックバレエ連盟

『ホフマンの恋』伊藤範子:振付

世田谷クラシックバレエ連盟は区民文化祭の一貫として、第18回目にあたるバレエ公演を行った。今回の公演では、岩上純振付の『FUNKY TONE』、本多実男の改訂振付による『ドン・キホーテ』より「夢の場」、伊藤範子の演出・振付『ホフマンの恋』の3作品が上演された。
『ホフマンの恋』は、オペラ『ホフマン物語』を原案として伊藤範子の演出・振付により創作されたバレエだ。周知のようにジャック・オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』は、『コッペリア』や『くるみ割り人形』の原作者として知られるドイツの作家で詩人のE.T.A.ホフマンの三つの短編小説を基に構成した台本に作曲し、1881年にパリで初演された。しかし、作曲者のオッフェンバックが未完のうちに亡くなったため、今日まで様々なヴァージョンのオペラが創られ上演されている。物語もいろいろと複雑に展開するのだが、伊藤範子はこれをじつに手際よくまとめて、素敵なバレエを創った。
物語の大筋はオペラと同様に、主人公のホフマンが恋人の『ドン・ジョバンニ』を上演中のプリマ、ステラを待つ間に、オランピア、アントニア、ジュリエッタという異なった3人の女性への恋の顛末を語る、というもの。

バレエ『ホフマンの恋』では、ホフマンの詩を愛する天使が、友人ニクラウスとしていつもホフマンとともにいる。冒頭から羽を着けた天使が机の下から姿を現し、ホフマンの詩を賞賛。自らの羽根を取って羽ペンをホフマンに渡す。もっと素晴らしい詩を書いてほしい、というわけだ。天使の登場の仕方、羽ペンの使い方も気が利いていて、何やら心楽しくなるようなオープニングであり、エンディングとも上手く繋がった。
まず、悪魔コッペリウスが作った人形のオランピアとの恋を語る。貧乏学生のホフマンは、コッペリウスから人形が素晴らしい女性に見える魔法の眼鏡をニセ金で買って、オランピアに恋に陥る。

世田谷クラシックバレエ連盟「ホフマンの恋」 撮影/山廣康夫

(C)YASUO YAMAHIRO

しかし贋金がばれて大失敗。次は美声の歌手アントニアとの相思相愛の恋。しかし病弱のアントニアは愛か芸術かの選択を迫られ、医者の姿をした悪魔の声に誘われて、ホフマンを捨てて歌手として生きることになる。そして次は高級娼婦ジュリエッタに魅了されたが、彼女は悪魔にそそのかされてダイヤモンドのためにホフマンを誘惑していた・・・。結局、悲しい恋を語っているうちにホフマンは、酔いつぶれてしまい、待ち合わせていたオペラ歌手のステラにも振られてしまう、という物語だった。

世田谷クラシックバレエ連盟「ホフマンの恋」 撮影/山廣康夫

(C)YASUO YAMAHIRO

振付はバロック・ダンス風、クラシック・バレエ、キャラクテール風のダンスとそれぞれのお話に応じて使いわけられていた。ダンサーもそれぞれに力を発揮していたが、やはり、ホフマンを演じた元K バレエ カンパニーのソリスト、浅田良和が全編を通して安定感があった。ニクラウスに変身した天使を踊った小野佑衣子も細やかな表現が上手く、この作品独特の味わいを出すことに貢献していた。リフトもしっかり使われていたので見応えもあった。
様々な人形に囲まれて物語がすすむオランピアのシーンは、とても幻想的な雰囲気があり良く踊られていて印象的だった。アントニアとホフマンのパ・ド・ドゥもきちんと振付が創られていて説得力があり、悲恋の哀しみがじわっと伝わってきた。

こうした作品では、もう少し仕掛けのある大掛かりなセットを組みたかったかも知れないが、おそらく予算的に叶わなかっただろう。しかし、小道具や椅子、ベッド、マスクなどの道具類を巧みに配してシーンを作り、恋の魔術的な気分は現れていたと思う。衣装も表現の一部としてそつなく配慮されていた。全体の舞台表現は良く練り込まれており、振付と演出も一方的に傾くことなくバランス良く創られていたと思う。
『道化師〜パリアッチ〜』(谷桃子バレエ団)に続いて、伊藤範子が創ったオペラの世界を題材としたバレエである。同じ舞台芸術のオペラというジャンルと交錯するバレエ作品として、今後も大いに発展していく可能性を秘めている、と思われるので大いに期待している。
(2014年11月2日 世田谷区民会館)

世田谷クラシックバレエ連盟「ホフマンの恋」 撮影/山廣康夫

(C)YASUO YAMAHIRO

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