著しい進境を見せたインドネシアと日本のコラボレーション「To Belong project」
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ワールドレポート/東京
- 佐々木 三重子
- text by Mieko Sasaki
〈Dance New Air 2014 ダンスの明日〉
"To Belong / Suwung" 北村明子:振付・演出・出演、ユディ・アフマッド・タジュディン:ドラマトゥルグ・演出・出演
〈Dance New Air 2014 ダンスの明日〉は、東京・青山で開催されてきた〈ダンストリエンナーレトーキョー〉を引き継ぐ形で始められたコンテンポラリーダンスの祭典。ダンスパフォーマンスを中心に、トークやワークショップ、ダンス映画の上映、ブックフェアなどを加えるという、〈トリエンナーレ〉を踏襲したプログラムだった。今年の会期は9月12日から10月5日までで、国や芸術ジャンルの壁を越えて新たな地平を模索する協働クリエーションの8公演に焦点が当てられた。中でも、「映像/音楽/ダンス」による「インドネシア×日本 国際共同制作公演」と銘打たれた北村明子の新作"To Belong / Suwung"は、彼女がダンスを通じた国際交流企画「To Belong project」でインドネシアとのコラボレーションを意欲的に推進してきただけに注目された。北村明子は振付・演出・出演、ユディ・アフマッド・タジュディンはドラマトゥルグ・演出・出演という形で協同し、ほかに日本とインドネシアのダンサー計5人が参加して上演された。
タイトルの「Suwung」はジャワ王朝の詩から採られた言葉で、「目には見えないが、何かがそこに存在することを感じる」という感覚を表すそうで、「空(くう)」の中にその存在を感じる何かと関わり合うことでもあるという。また、北村が、予期せぬ場所に飛ばされ、海を渡っても、己を適応させて生き続けるという「迷い蝶」に、「To Belong」におけるコラボラーションのあるべき姿を見い出していると知れば、作品の理解も深まるだろう。
舞台には細いチェーンのようなものを垂らした暖簾に似た大きな仕切りが5本、左右と後方に吊るされており、それをスクリーン代わりに、様々な映像がダンスと呼応して投影された。
撮影/塚田洋平
冒頭、参加アーティストでありながら今年1月に亡くなった音楽家で影絵師のスラマット・グンドノの在りし日の姿が演奏と共に映し出されると、北村が彼を偲ぶように踊り始めた。そのソロは時空を超えて彼の魂と触れ合っているように見えた。続いて繰り広げられたダンスシーンにはダンサーそれぞれの個性が発揮されていて、自由闊達に映った。互いに係わり合い、相手を受け入れたようでいて、己のオリジナリティーを貫くといったふうに見えた。印象深かったのは、3人の男性による格闘技のようなパフォーマンスなど、インドネシアの伝統舞踊や武術を思わせるものだった。中でも際立っていたのはリアントで、ソロでは身体の各部をしなやかに操り、豊かにイマジネーションを紡いでみせた。西山友貴の意志力のこもったダンスも見応えがあった。
撮影/塚田洋平
音楽はといえば、ジャワの音楽やラップ、風の音など、ダンスに拮抗するように多種多様で、味わいがあった。エンダ・ララスの心に沁みる歌唱が忘れ難いが、彼女は歌だけでなく、カラフルなインドネシアの影絵人形を操って見せもした。映像はダイナミックなCGなども用意されていて、時にはダンスを圧倒するほどの迫力を見せた。CGによる白い蝶が何度か現れたが、上方へと羽ばたく蝶は、ダンスを究めようとする精神の象徴ように感じられた。幕切れ近く、研ぎ澄まされた美しさをたたえて踊った北村の姿に、この白い蝶がダブり、彼女のクリエーションの更なる飛翔を予感させた。
(2014年10月4日、青山円形劇場)
撮影/塚田洋平
撮影/塚田洋平