郷愁と恋、そして現実をメランコリックに描いたマクミランの傑作『WINTER DREAMS』を初演

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

小林紀子バレエ・シアター マクミラン・トリプル

『コンチェルト』『WINTER DREAMS〜三人姉妹〜』『エリート・シンコペーションズ』ケネス・マクミラン:振付

マクミラン作品を意欲的に上演しつづけている小林紀子バレエ・シアターが、『WINTER DREAMS〜三人姉妹〜』を初演し、既にレパートリーとしている『コンチェルト』と『エリート・シンコペーションズ』とともに、トリプルビルとして上演した。
『WINTER DREAMS〜三人姉妹〜』は、アントン・チェーホフの有名な戯曲が原作。最初はこのパートがガラ公演のために創られたという、マーシヤ(島添亮子)とヴェルシーニン(アントニーノ・ステラ)の別れのパ・ド・ドゥがクライマックスとなる。アントニーノ・ステラはミラノ・スカラ座バレエのプリンシパル。小林紀子バレエ・シアターでは『くるみ割り人形』『アナスタシア』などに出演している。
ロシアの地方都市に暮らす将軍の三姉妹は、わずらわされるものがない子供時代を過ごした、大都会モスクワの日々が忘れられない。そこに陸軍の駐屯部隊がやってきて、瀟洒な制服姿の将校たちが一時的に彼女たちの家庭にも出入りするようになる。そして、地方の学校教師クルイギン(後藤和雄)と単調な結婚生活を送る次女のマーシヤや、長女オーリガ(喜入依里)、三女イリーナ(高橋怜子)の姉妹たちに起こる郷愁と恋の感情の波紋と、その背後にある侵し難い現実とをメランコリックに描いている。
舞台は、奥に大きなテーブルで食事をする一族を沙幕で区切り、その前の空間で様々な関係が踊られる。このピーター・ファーマーの装置がじつに素晴らしい。背後に沙幕ごしに一族の食事の情景をセットすることにより、舞台中央で踊る登場人物と、そのほかの姉妹たち、また家族との微妙な関係が、それぞれの感情の屈折を透かして自然に表わして見えてくる。じつに巧みで、効果的な演出の手法だ。
ピアノ曲を中心としたチャイコフスキーの美しいメロディーとともに、ソロやパ・ド・ドゥ、パ・ド・トロワなどが踊られて、その関係と感情の細やかなやりとりが際立つ。マクミランの演出としては時折見られる二重構造だが、この作品は、この演出なくしては考えられないほど見事に決まったものだ。

そのほかに、『コンチェルト』音楽ドミトリー・シェスタコーヴィチ、真野琴絵、上月佑馬、島添亮子、ジェームス・ストリーター(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)、喜入依里、高橋怜子ほか出演。『エリート・シンコペーションズ』音楽スコット・ジョップリンほか、高橋怜子、ジェームス・ストリーター、島添亮子、アントニーノ・ステラ、喜入依里、冨川直樹、上月佑馬、萱嶋みゆき、真野琴絵、後藤和雄ほか出演、が上演された。
(2014年8月24日 ゆうぽうとホール)

ページの先頭へ戻る