勅使川原とオーレリー・デュポンが共演し、生と死の間を浮遊する眠りの世界を描写

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子
text by Mieko Sasaki

勅使川原三郎新作公演

『睡眠 ―Sleep―』勅使川原三郎:構成・振付・美術・照明

世界狭しと精力的に活動を展開しているダンサーで振付家の勅使川原三郎が、パリ・オペラ座バレエ団のエトワール、オーレリー・デュポンを招き、新作『睡眠―Sleep―』で初共演した。身体と対峙し、その可能性を探究することで、新たな世界を切り拓いてきた勅使川原。モダンも柔軟にこなすとはいえ、長年にわたりクラシック・バレエを究めてきたデュポン。勅使川原はパリ・オペラ座の委嘱で作品を創作しているので、デュポンは彼の作風を体験済みだが、個人で勅使川原の創作に向き合うのは初めて。それだけに、異質な二人の共演がどのような化学反応を起こすのか、注目された。勅使川原が主宰するKARASからは、彼の作品に欠かせない佐東利穂子を始め、若手の鰐川枝里と加藤梨花が出演した。

会場全体が闇に包まれた後、ようやく照明がつくと、舞台上には透明なアクリル樹脂の板や枠、イスなどがモビールのように吊るされていた。照明を反射しながら回転するアクリル板は表と裏のような異なる世界の存在を暗示しているようでもあり、四角い枠の連なりは夢の世界へいざなっているようでもあり、全体が睡眠という神秘性を秘めた世界への導入部になっていた。場面に応じて吊るすものや配置を変化させたが、シンプルながら効果的なセットだった。
さて、注目のデュポンだが、最初は眠りに入るところなのか、やや前かがみでゆったり体を揺らす程度だった。舞台中央でのソロでは勅使川原独得の身体を揺らす動きを忠実になぞってみせたが、バレエというフィルターを通したような身のこのこなしは美しく、勅使川原の語法に新たな魅力を加えたように感じた。彼女が振り回す腕が描く軌跡は、照明を受けて美しい残像となって漂った。

撮影/小川峻毅

撮影/小川峻毅

勅使川原は短いソロにも全身全霊のパワーやエネルギーを込めているのが伝わってきて、圧倒的な存在感。
佐東のダンスには、デュポンと対照的な尖ったような鋭さが際立ち、要所で舞台を引き締めた。三人が一緒に踊るシーンは、夢幻と覚醒が交錯するような不可思議な情景に映った。鰐川と加藤は熟睡しているように床に横たわり、逆に悪夢に憑かれたように物凄い速さで腕や身体を揺らしながらステージを横切るなど、作品にアクセントを付けていた。

睡眠とは、一般に意識がない状態であり、同時に心身が解き放たれて無防備な状態でもある。また、現実とは異なるが現実との繋がりも持つという、矛盾をかかえた別の世界でもあるだろう。こうした視点を踏まえて、舞台上では、心地良いまどろみや前後不覚の熟睡、安らかな眠りや悪夢にうなされる眠り、夢遊病に似た眠りなど、謎も多い睡眠のあり様が、入眠と覚醒もからめて脈絡なくダンスで綴られていった。だが、究極の視点は、もし目覚めなければ永久の眠りというもの。勅使川原は、夜に眠り、朝に目覚めるという日常の行為が、生と死の危うい境界にあることを改めて喚起し、睡眠が持つ神秘性を様々な形で示唆してみせたのである。
(2014年8月14日 東京芸術劇場プレイハウス)

撮影/小川峻毅

撮影/小川峻毅

撮影/小川峻毅

撮影/小川峻毅

撮影/小川峻毅

撮影/小川峻毅

撮影/小川峻毅(すべて)

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