ロシア・バレエ インスティテュート同窓生、薄井先生の卒寿を祝う楽しい夕べが開催された

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

薄井憲二先生の卒寿を祝う会 ロシアバレエインスティテュート開校26周年記念・第2回 同窓会バレエコンサート

薄井憲二先生の卒寿を祝う会実行委員会、ロシア・バレエ・インスティテュート同窓会

薄井憲二先生の卒寿を祝う会 ロシアバレエインスティテュート開校26周年記念・第2回 同窓会バレエコンサートが、2012年の米寿のお祝いコンサートの2年後に開催された。
薄井先生はご高齢にも関わらず、もちろんばりばりの現役でご活躍されている。私は最近、『ディアギレフ・バレエ年代記』(セルゲイ・グリゴリエフ著、薄井憲二/監訳)の編集に加えていただき、ご一緒の仕事をすることができた。その際、先生が京都と東京をしばしば行き来して、精力的にお仕事をなさっているのを見て、本当に頭が下がる思いをした。

「卒寿を祝う会」の開幕は、『眠りの森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥ。スウェーデン王立バレエ団ソリストの山口真有美とノルウェー国立バレエで踊る松井学郎が踊った。山口は美貌で、帝政ロシア時代のバレリーナの面影を感じさせ、薄井先生を祝う会の開幕に相応しかった。
『ロシアの踊り比べ』は女性二人(市川喜愛瑠、福島梓)と男性ダンサー(アンドレイ・オルロフ)のコミカルな民族舞踊。ロシア的ユーモアも織り込まれていた。

カーテンコールでエドリアン・カンテルナ・トーマス(ラスタ夫人)から花束を贈られる薄井憲二

カーテンコールで花束を贈られる薄井憲二

『Silencico』は山田勇気振付。ボーカルに合わせたソロを青木枝美が踊った。舞台の空間を充分に使った演出で、伸びやかな動きが良かった。『くるみ割り人形』雪のグラン・パ・ド・ドゥをJ.サザーランドのモダンな振付で、宮川真那と中川駿高が踊った。チャイコフスキーの名曲のメロディーの美しい起伏を速い動きに変換して意表を突く振付だった。『ランチブレイク』は、私にとってはたいへん懐かしいザイフェルトの振付。音楽はマーラーで、秦万実が踊った。「アラゴンのホタ」(N.ヤーシェンコワ振付、グリンカ音楽)、『ラウレンシア』よりパ・ド・シス(V.チャブキアーニ振付、A.クレイン音楽)が踊られ第一部が終了した。

第2部は『せむしの仔馬』より「フレスコのパ・ド・カトル」で始まった。4人(江口紅葉、角山明日香、坂井直子、日原永美子)で踊る楽しさがとても良く現れて楽しかった。C.プーニの音楽と4人のダンサーたちの組み合わせとフォーメーションが、巧みで見る人の興味を惹き優しい感情を呼び起こした。振付はサン=レオン。
『Inbetween Realities』ハルバート・キミホの振付。常に下手奥から光りが照らされ、女性二人(森田真希、ハルバート・キミホ)と男性ダンサー(上野天志)が踊る。パ・ド・トロワでは三人の鼓動が共鳴するかのようなリズムが挿入されて効果的だった。三人は時折ひとつの方向を見詰め、何かを求めているのか、何かが訪れるのを待っているのか・・・その三人の絡み合い自体が生きることの有り様を表しているかのようでもあった。
『カルメン』はゲスト参加のエドリアン・カンテルナ・トーマス(ラスタ夫人)の振付で、自身がソロを踊った。たいへん速い動きで、良く知られるビゼー曲を見事に踊った。振付もダンスも素晴らしかった。そしてラスタ・トーマスが『Dedicated to Kenji Usui』を踊って卒寿を祝った。

『バヤデルカ』(プティパ振付、ミンクス音楽)の抜粋もうまく構成されていた。ソロルを奥村康祐、ガムザッティを小野絢子、ブロンズ像をアクリ士門、壺の踊りを富永典子、さらにソリスト、コール・ド・バレエというキャスト。壺の踊りから始まり、ディヴェルティスマン風の踊りを交え、ブロンズ像の踊り、コール・ドを従えたガムザッティとソロルのグラン・パ・ド・ドゥ。悲劇的要素は薄れるものの、原典の踊りの面白さを生かした抜粋だった。奥村のソロルは俊敏、小野のガムザッティは艶やか、アクリ士門のブロンズ・アイドルは活力に溢れ、客席から「かっこいい!」と賞賛が聞かれた。

小野絢子、奥村康祐 撮影/飯田耕治

小野絢子、奥村康祐 撮影/飯田耕治

田北志のぶの『瀕死の白鳥』は初見だったが、長い手足と柔軟性が感じられた。
岩田守弘は自身が振付けたU.ヴィソッツキーの曲の逞しい歌声とともに踊るソロ。『全て違うんだ!』全てが違うという表現の中に、こうなるべきなんだ、という理想の思いを秘めて踊った。さすがについ最近までボリショイ・バレエのソリストとして踊っていた闊達な動きが、目に鮮やかだった。
最後に、プログラムには記されていなかった、ラスタ&エドリアン夫妻のパ・ド・ドゥがサプライズ登場。エドリアンの華麗な表現力にもまた、サプライズされて祝祭の幕は降りた。
フィナーレには薄井憲二先生も登壇し、言葉を述べられ、花束を受け取られ喜ばれていた。
バレエに関して博覧強記の薄井先生のお祝い公演らしく、ロシア・バレエの興味深い演目が踊られて、じつに楽しい、ダンスの心あふれる祝祭だった。
(2014年7月28日 新宿文化センター大ホール)

ページの先頭へ戻る