勅使川原三郎と佐東利穂子がヴァイオリンの音楽と共振する濃密なパフォーマンス

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子
text by Mieko Sasaki

勅使川原三郎+KARAS 〈アップデイトダンス〉シリーズ

『ヴァイオリン 震える影』勅使川原三郎:振付

〈アップデイトダンス〉は、国内外で精力的に活動を展開している勅使川原三郎が、新しい表現をクリエイトする場所として、昨年7月、東京・荻窪に開設した小空間「カラス・アパラタス」で行っている意欲的なダンス・シリーズのこと。タイトルからうかがえるように、一つの作品を、振付や音楽の構成、出演するダンサーを日々更新しながら上演するというもの。こうした実験的な試みが行なえるのも、カラス・アパラタスという、リハーサルスタジオと発表の場となるホールを一体化した施設を持てたからだろう。ダンサーの息遣いまで感じられる密な空間というのも魅力で、踊り終わったばかりのダンサーが登場してトークに臨むのも、観客との距離を縮める試みとして効果がありそうだ。

『ヴァイオリン 震える影』は、ヴァイオリンが奏でる音楽と身体の響きあいを追求した作品で、ヴェニス・ビエンナーレの一貫として、6月19日にヴァイオリンの庄司沙矢香との共演で世界初演する『LINES』に向けてのパフォーマンスだった。音楽はすべて無伴奏ヴァイオリンのための作品で、筆者が観た4日目に使われたのは、ビーバーの「パッサカリア」、バッハの「パルティータ」の第1番と第2番から1曲ずつと、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタの全4楽章で、前日より1曲多い構成という。また、最初の2日間は佐東利穂子によるソロ・ヴァージョンだったが、3日目からは勅使川原と佐東によるデュオ・ヴァージョンに更新したそうだ。

「ヴァイオリン、震える影」撮影/阿部章仁

撮影/阿部章仁

冒頭、無音の中、勅使川原が緩やかに動かす手や腕、額の描く軌跡が暗い空間に浮遊するようにみえた。音楽が流れだすと、動きは大きくなり、身体を回転させ、次の曲では痙攣させるように体を小刻みに揺らし、その場の空気の質感を変えた。勅使川原と入れ替わるように現れた佐東は、大きく腕を振り回し、ステージを横切るなど、動きの幅を増したが、ヴァイオリンが激しく弾き鳴らされる部分では、ゆったり踊るなど、自在に応えていた。再び勅使川原のソロになり、照明が床に形作る台形のそばで、音楽を全身に浴びるように佇む部分もあったが、最後は繊細に身体を揺らし、床を踏み鳴らすなど、ヴォルテージを上げて終わった。デュオ版といっても二人が絡み合うシーンはなく、また、前半のバロック期の音楽と後半の20世紀半ばの音楽とで、振りを明確に分けてもいなかった。音楽から受け止めた感触を内に沈潜させて表出する勅使川原と、音楽から受け渡されたエネルギーを弾き出すように放出する佐東の対比が興味深かった。それにしても、何とも濃密な1時間弱のパフォーマンスだった。
(2014年6月9日 カラス・アパラタス)

「ヴァイオリン、震える影」撮影/阿部章仁

「ヴァイオリン、震える影」撮影/阿部章仁

「ヴァイオリン、震える影」撮影/阿部章仁

「ヴァイオリン、震える影」撮影/阿部章仁

「ヴァイオリン、震える影」撮影/阿部章仁(すべて)

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