貧しいみなりでこそ、美しさが際立った森下洋子のシンデレラ

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

松山バレエ団

『シンデレラ』清水哲太郎;演出・振付

森下洋子が踊り、金子国義のイラストレーションでお馴染みの松山バレエ団の『シンデレラ』は、度々、再演され、その都度、演出に工夫が凝らされている。いつも主人公のシンデレラの、純粋な美しい心がドラマティックに浮かび上がるように演出されている。

今回もシンデレラの純粋な美しい心が現れるドラマにスポットを当て、そのほかの要素は、概ね、ミュージカル風のモブシーンで表わされている。そしてそれが、プロコフィエフの音楽の戯画化された表現とうまくマッチしていた。
王子とシンデレラの宮廷での出会いも、王子の嫁選びの喧騒とは対照的な静寂の中に描いて、際立たせることに成功している。そして終局のグラン・パ・ド・ドゥでは、シンデレラの森下洋子と王子の鈴木正彦が踊るのだが、これれがなかなか感動的だった。
森下洋子はまさにバレリーナの精として舞台に姿を現したようであり、同じ舞台に立っている松山バレエ団のダンサーたち全員の尊敬を一身に集めている。その熱い気持ちが舞台に漲り、強い印象を残した。
さらにラストシーンでは、宮廷での出会いのシーンとは一転して、貧しい姿を王子の目にさらして、ガラスの靴が彼女の物であること証明せざるを得なくなり、義母や義理の姉たちと心を合わせる。そしてその貧しい姿のまま結婚の誓いを交わすのである。

松山バレエ団『シンデレラ』 (C)エー・アイ 撮影:黒瀬晴香

(C)エー・アイ 撮影:黒瀬晴香

しかし、そのシンデレラが踊る劇空間は現実と価値観が明らかに異なっており、貧しい身なりは美しさの証明となっている。そこにもし、豪華に着飾った人物が迷い込んできたら、そこにいる人たちはいっせいに、その人物に侮蔑の眼差しを向けるに違いない。そう思えるくらい、貧しい身なりの森下洋子のシンデレラは美しかった。
(2014年5月3日 オーチャードホール)

松山バレエ団『シンデレラ』 (C)エー・アイ 撮影:飯島直人

(C)エー・アイ 撮影:飯島直人

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