ユーリ・ン、ショルツ、ドゥアト、ゲッケ、4人の尖鋭な振付家の作品が競演、アーキタンツ3月公演

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

ARCHITANZ 2014

"Boy Story" by YURI NG ユーリ・ン:振付 
"The Second Symphony" by UWE SCHOLZ ウヴェ・ショルツ:振付 
"Castrati" by NACHO DUATO ナチョ・ドゥアト:振付
"Mopey" by MARCO GOECKE マルコ・ゲッケ:振付

このところ意欲的な公演を次々と開催しているアーキタンツの3月公演は、まず、ユーリ・ンの『Boy Story』で幕を開けた。1996年に香港の返還をテーマとして初演されたもの(日本初演1998年)だが、ポップス曲が流れてユーリ・ンの作品を観た時の新鮮だった感触が甦ってきて懐かしかった。この『Boy Story』も既にヴァージョンを変えながら10回近い再演を重ねている。加山雄三やフォーブラザーズなどのかつてヒットしたポップスを使い、喝采を浴びる京劇の女形から始まる基本は同じだった。香港バレエ団の上半身裸で時には黒いスーツを纏った男性ダンサー6名が踊ったが、フレキシブルな身体表現は統一感があって美しい。ギターやバーを使うなどユーリ・ン独特の身体表現の文体は変わりない。それぞれのダンサーの身体もまた柔軟性に富んでいて見応えがあった。

「Boy Story」撮影/瀬戸秀美

「Boy Story」撮影/瀬戸秀美

「Boy Story」撮影/瀬戸秀美

次は2004年に急逝したが、最近は日本でも人気が高まり上演が続いているウヴェ・ショルツ振付の『The Second Symphony』。ロバート・シューマンの同名の交響曲に振付けている。酒井はなとアレクサンダー・ザイツエフ、西田佑子とヤロスラフ・サレンコという二組のペアが踊った。音楽とともに踊られる堂々たるケレン味のない振付だ。二組のペアの踊りを組み合わせて、デュエットの美しさを見事に生かした素晴らしい構成だった。西田佑子はやや小柄ながらサレンコとはぴったりと合い、清潔感のあるおおらかで魅力的な内面を感じさせる身体性が際だった。もっとどんどん踊ってもらいたい。酒井はなのしなやかさとザイツェフの逞しさともまた良いバランスだった。

「The Second Symphony」撮影/瀬戸秀美

「The Second Symphony」撮影/瀬戸秀美

「The Second Symphony」撮影/瀬戸秀美

ナチョ・ドゥアトの『Castrati』は、香港バレエ団の9人の男性ダンサーが踊った。音楽はヴィヴァルディとカール・ジェンキンス。黒いノースリーブのトップにロングスカートを繋げたかのような衣装だが前は大きく空いている。力強いアンサンブルと鮮烈なヴァリエーションが繰り広げられ、男性の若い性が燃えるようなエネルギーを発散した。特にアンサンブルが醸す息苦しい様な集団の有り様が印象的だった。

「Castrati」撮影/瀬戸秀美

「Castrati」撮影/瀬戸秀美

「Castrati」撮影/瀬戸秀美

「Castrati」撮影/瀬戸秀美

「Castrati」撮影/瀬戸秀美

最後に踊られたのはマルコ・ゲッケ振付の『Mopey』。このソロ作品は酒井はなが踊った。マルコ・ゲッケはシュツットガルト・バレエ団のレジデンス・コレオグラファーとして活動をしており、日本では2012年の世界バレエフェスティバルと2010年の「マニュエル・ルグリと輝けるスターたち」公演で、フリーデマン・フォーゲルがこの作品を踊った。おそらく日本人のダンサーが日本の舞台でゲッケ作品を踊るのは初めてではないだろうか。
独特のヴォキャブラリーを駆使して、速射砲のように細かい動きを繰り広げる、饒舌なダンスだ。俊敏で鋭い運動神経の持ち主の酒井はながこのユニークな文体のダンスを、余裕さえ感じさせて見事に踊った。
(2014年3月21日夜 新国立劇場 小劇場)

「Mopey」撮影/瀬戸秀美

「Mopey」撮影/瀬戸秀美

「Mopey」撮影/瀬戸秀美

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