ダンスが大好きな母と娘がハッピー・エンドを迎える、谷桃子バレエ団『リゼット』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

谷桃子バレエ団

『リゼット』谷桃子:再演出/再振付、ジャン・ドーヴェルヴァル:原振付、アレクサンドル・ゴルスキーによるスラミフ・メッセレル、アレクセイ・ワルラーモフ:再振付

谷桃子バレエ団の『リゼット』。ボリショイ・バレエのプリマだったスラミフ・メッセレルが東京バレエ学校で一緒に教えたアレクセイ・ワルラーモフと、ゴルスキー版に手を加えたヴァージョンに基づいて、谷桃子が演出・振付を行った舞台。(日本初演は1962年11月東京文化会館)音楽はロシアに伝わったペーター・ルードヴィッヒ・ヘルテル作曲のもの。
このバレエには1978年フランス、ボルドー初演以来、さまざな歴史があるが、ロシアでは古くから『無益な用心』というタイトルで親しまれてきた。スラミフ・メッセレルは周知のようにマイヤ・プリセツカヤの叔母。父と母を強制連行されたプヤリセツカヤは、スラミフの下からボリショイ・バレエ・アカデミーに通い、バレエの基本の手ほどきもうけた。
谷桃子バレエ団の『リゼット』は、プティパの振付をゴルスキーが手直ししたボリショイ・バレエの伝統に連なっている。

このバレエはコメディ・バレエだ。娘を金持ちのところへ嫁がせて楽をしたい母(マルセリーヌ・樫野隆幸)と、好いた同士の娘(リゼット・永橋あゆみ)と男(コーラ・三木雄馬)が、様々な駆け引きをくり返す。そしてついに母をも納得させてめでたく結ばれる。金持ちの息子(ニケーズ・山科諒馬)が少々、頭が弱く真っ赤なコウモリ傘に異常に執着しているなど、笑わせる要素も充分盛り込まれている。

『リゼット』永橋あゆみ、三木雄馬 撮影:スタッフ・テス 高橋大輔/根本浩太郎

永橋あゆみ、三木雄馬
撮影:スタッフ・テス 高橋大輔/根本浩太郎

英国ロイヤル・バレエのアシュトン版などでは、利発なコーラスと愚かなアラン(ニケーズ)、打算的なシモーヌ(マルセリーヌ)とアランの父という大人世代と、希望にあふれたリーズとコーラスの若者がコントラストをつけて描かれているが、谷桃子版はあまりそうした関心はない。ドラマよりも、このシチュエーションをどのように華やかなダンスシーンに創るか、に創意が向けられている。ただコーラにはぴったりの適役と思われた三木雄馬はよく踊っていたが、もっと踊れるはず。三木は元々茶目っ気もあるから、もっと楽しませて欲しかったとも感じた。永橋あゆみも良く頑張って踊っていたが、うん、これだ、と思わせるところは少なかったかもしれない。二人とも真面目に演じ踊りながら、巧まざるユーモアがもう少し出たらいいかな、という気がした。この作品でパートナーを組むのは初めてだと思われるので、これから踊り込んでいけばさらに良くなるに違いない。樫野のマリセリーヌは全体には良くそつなく演じていたが、やはり、まだ芝居の呼吸が完璧に合っていたとはいえない。
母は娘に虫がつかないように厳しく用心しているが、ダンスがたいへん好きで木靴の踊りが得意中の得意。「踊ってくれ」と周りから頼まれるとどうしても断りきれない。だからだろうか、娘のリーズに「みんなと一緒に踊ってもいい?」と聞かれるとついつい許してしまう。とにかく、踊りが大好き! と言わずにはいられない母と娘がハッピーエンドを迎える、それがこのヴァージョンも最も素敵なところであることは間違いない。
(2014年3月1日 ゆうぽうとホール)

tokyo1404e_0281.jpg

永橋あゆみ、樫野隆幸、陳鳳景、山科諒馬

『リゼット』樫野隆幸、陳鳳景 撮影:スタッフ・テス 高橋大輔/根本浩太郎

樫野隆幸、陳鳳景

『リゼット』齊藤 耀、酒井 大 撮影:スタッフ・テス 高橋大輔/根本浩太郎

齊藤 耀、酒井 大

『リゼット』齊藤 耀、酒井 大、岩上純 撮影:スタッフ・テス 高橋大輔/根本浩太郎

齊藤 耀、酒井 大、岩上純

『リゼット』第2幕 メイポール 撮影:スタッフ・テス 高橋大輔/根本浩太郎

撮影:スタッフ・テス 高橋大輔/根本浩太郎(すべて)

ページの先頭へ戻る