ABTとして初登場のセミオノワと生え抜きのスターンズの新鮮な演技が際立った『マノン』

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子
text by Mieko Sasaki

American Ballet Theater アメリカン・バレエ・シアター

"Manon" by Kenneth MacMillan
『マノン』ケネス・マクミラン:振付・監督

アメリカン・バレエ・シアター(ABT)の二つ目の全幕プロは、ケネス・マクミランのドラマティック・バレエの傑作『マノン』。ABTがこれを日本で上演するのは、何と18年振りだという。主役はトリプルキャストで、ジュリー・ケント&ロベルト・ボッレ、ディアナ・ヴィシニョーワ&マルセロ・ゴメス、ポリーナ・セミオノワ&コリー・スターンズの3組み。さすがスター揃いのABTだけに、どのキャストも魅力的。今回は、2012年にベルリン国立歌劇場バレエから移籍し、日本でABTのプリンシパルとして登場するのは初めてのセミオノワと、躍進目覚ましいABT生え抜きの若手、スターンズという、いわばフレッシュ・コンビが組んだ日を観た。

「マノン」ポリーナ・セミオノワ、コリーン・スターンズ (C)Hidemi Seto

(C)Hidemi Seto

マノン役のセミオノワは、第1幕で登場した時は男心をそそるような妖艶さは感じられず、どこか清楚な美しさで際立った。神学生のデ・グリューはそんな彼女の美しさに魅せられてしまい、二人は恋に落ちたのだろう。スターンズが演じたデ・グリューも、世間ズレしていない初心な青年を思わせた。だから、二人とも情熱に駆られると、なりふり構わず突っ走ってしまう危うさがあったわけで、それが二人の行く末を暗示するようにも思えた。デ・グリューの下宿の寝室での最初のパ・ド・ドゥでは、セミオノワは愛らしさ一杯だった。セミオノワが手紙を書くデ・グリューの邪魔をして甘えた時、スターンズは「待っていました」というふうに反応し、情熱をほとばしらせるように踊りだしたのがフレッシュな印象を与えた。スターンズは、演技にまだ硬さはあったものの、マノンひと筋というふうに、彼女のことを思い、どこまでも尽くすデ・グリューを真摯に演じていた。

対するセミオノワは、"男の運命を狂わす魔性の女"というイメージは意外と薄かった。むしろ、美しいがゆえに、兄レスコーを含め男たちに押し流されて生きることになる、悲運なヒロインに映ったのである。場面が進むにつれての、異なる姿の演じ分けも的確だった。

踊りでは、二度目の寝室のパ・ド・ドゥも甘美で良かったが、最後の "沼地のパ・ド・ドゥ" が秀逸だった。看守に凌辱され心身ともに壊れてしまったような状態で、力なくデ・グリューに身を委ねるマノンと、彼女を抱きしめ、リフトし、宙に投げては受け止めるデ・グリュー。二人のデュエットには絶望感が滲み、悲痛な叫びがこだましていた。
ほかに、レスコーを演じたジェームズ・ホワイトサイドも優れたテクニックの持ち主のようで、第1幕で鮮やかなソロを見せ、第2幕で酔っぱらって踊るシーンでも、難しいステップが織り込まれた振りを巧みにこなした。レスコーの情婦役のヴェロニカ・パールトもパワーのあるダンサーで、奔放な踊りでマノンと対比を成した。旅館の中庭での喧騒や高級娼館の退廃的な雰囲気は、紳士や娼婦たちの踊りで濃密に描写され、マノンが置かれた時代の状況を伝えていた。ここにも、マクミランの卓越した手腕がうかがえた。主役の二人の熱演はもちろんのこと、見応えのある充実した舞台だった。
(2014年2月28日昼 東京文化会館)

「マノン」ポリーナ・セミオノワ、コリーン・スターンズ (C)Hidemi Set

(C)Hidemi Seto

「マノン」ポリーナ・セミオノワ、コリーン・スターンズ (C)Hidemi Seto

(C)Hidemi Seto

ページの先頭へ戻る