石田種生の意図を受け継いだ『白鳥の湖』を衣裳を一新して上演
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ワールドレポート/東京
- 佐々木 三重子
- text by Mieko Sasaki
東京シティ・バレエ団
『白鳥の湖』石田種生:演出・振付
東京シティ・バレエ団が、「都民芸術フェスティバル」の参加公演として、石田種生演出・振付による『白鳥の湖』を上演した。石田版の初演は1970年だが、石田は2012年に亡くなるまで5回にわたって改訂を重ねたという。プティパ/イワノフ版に基づくが、最終幕の演出や白鳥たちの群舞に独自性を打ち出し、王子とオデットが悪魔を倒して結ばれるハッピーエンドを、オデットと白鳥たちが人間の姿に戻って現れることで強調している。オデット/オディールとジークフリード王子はダブルキャストで、初日は志賀育恵と黄凱、2日目は若生加世子とユニバーサル・バレエのオム・ジェヨンという、この役を踊り込んでいるダンサーたちが配されていた。その初日を観た。なお今回は、小栗菜代子のデザインで衣裳を一新したのも話題だった。
幕開けは木の葉が色づいた秋の狩場。王子の友人たちによる群舞が楽しげに繰り広げられたが、踊っていない時でも、彼らが親しげに会話を交わしているような自然な芝居が見て取れた。颯爽と登場した黄凱は、さすが王子の風格を感じさせた。ただ、石田版では、『白鳥の湖』を王子が恋人を裏切るという過ちを通して成長する物語ととらえているだけに、王子役には場面毎に変化する心の内を細やかに伝えることが求められる。黄凱は、第1幕での心の晴れない様や、2幕でオデットに対する心の高まりといった表現がやや型どおりで、淡泊な演技に思えた。一方の志賀は、しなやかな腕や身のこなしで、はかなげで楚々としたオデットを演じた。
オディールでは、妖しい魅力をほのめかせ、王子の心を引き寄せては突き放しと、翻弄した。けれど見せ場の"黒鳥のパ・ド・ドゥ"では、黄凱は本調子でなかったのか、乱れが生じ、着地がきれいに決まらず、志賀も32回転が後半で崩れてしまったのが惜しまれる。もちろん、二人とも挽回して第4幕へと進めたのだが。
道化を務めた玉浦誠は鮮やかにピルエットをこなし、場を繋ぐ役も果たしていた。王妃役で登場した芸術監督の安達悦子は凛とした態度で威厳を示し、ロートバルトの小林洋壱はこなれた演技を見せた。第1幕のパ・ド・トロワや第3幕の民族舞踊は卒のない出来栄えだったが、それぞれの個性にもう一つ磨きがかかればと思う。白鳥たちの群舞は、シンメトリーで調和の整った第2幕とアンシンメトリーな第4幕の対比が際立った。評価が定まっているように、第4幕の白鳥たちのフォメーションは斬新で、グループごとに異なるラインで舞台を移動させ、躍動感を生み出していた。これでロートバルトに立ち向かう強さがもっと出ていれば、迫力も増したのではと思った。
小栗の衣裳だが、色合いやデザインに総じてセンスの良さを感じさせた。王妃が舞踏会でエリザベスカラーのドレスで現れたのにはちょっと違和感を覚えたが、物語の舞台を中世ドイツに特定しない、小栗の自由な発想によるのだろう。民族衣裳に詳しくはないが、舞踏会の場で、スペインやイタリア、ハンガリーやポーランドなど、それぞれのお国の特色を採り入れたという個性豊かなデザインが楽しめた。石田が没してから初の『白鳥の湖』だったが、石田の意図が継承されていることを実感させた舞台だった。
(2014年1月25日、ゆうぽうとホール)
撮影:鹿摩隆司(すべて)