マツァーク、フィリピエワ、ニェダクがそれぞれの力を発揮して公演『バヤデルカ』
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掲載
ワールドレポート/東京
- 原 桐子
- text by Hara Tohko
Kyiv Ballet The National Academic Opera and Ballet Theatre of Ukraine In memory of Taras Shevchenko
キエフ・バレエ タラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ
"BAYADERKA" Valerii Kovtun after M.Petipa
『バヤデルカ』ワレリー・コフトゥン:演出・振付、マリウス・プテイパ:原振付
冬の名物ともなっているタラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエ、キエフ・バレエの来日公演。12月は『くるみ割り人形』に加え『バヤデルカ』が上演された。めったに日本で観られない作品ならばともかく、エキゾティックな香りのする古代インドが舞台の人気のある作品、日本ではこれが初披露となり心待ちにしていた人も多いだろう。
音楽はミンクス、原振付はプティパ、ワレリー・コフトゥンによる振付と演出で、全体的には原振付に忠実でオーソドックスな全3幕、太鼓の踊りがあり、最後では寺院崩壊がなく「影の王国」の場面で終わる。
ニキヤを踊ったナタリア・マツァークは手足が長く容姿が美しいのダンサー。2000年、キエフ国立バレエ学校を卒業後、キエフ・バレエ団に入団、セルジュ・リファール国際バレエコンクールで2006年度第1位の経歴の持ち主。日本ではSMBC日興証券のTVCMでも知られているダンサー。長身なのに音に遅れず難なくこなす技術は圧巻で、ヴァリエーションでの小気味よいフェッテ、ジュテもかなり高さがあり拍手喝采を受けていた。
この物語の時代では巫女の地位は軽んじられていたであろう。ニキヤの巫女として、人として、ソロルに愛される女としてのプライドが内に秘められていることが、彼女の顔、姿態の表情から垣間見える。そしてそれがニキヤのキャラクターとして現れている。
ガムザッティの策略で花篭に仕込まれた毒蛇にかまれ、命を落とすことがわかっていても、愛を貫き、死んでゆくニキヤをマツァークは演じきった。
対するガムザッティはエレーナ・フィリピエワ。このカンパニーではベテランのスターダンサーで『白鳥の湖』のオデット、オディールや『眠りの森の美女』のオーロラなどの古典作品の主役はもちろんだが、芸術的かつ音楽的な素晴らしい踊りに定評がある。
ガムザッティでは優れた演技でまた新しい一面を見せてくれた。公演前は儚げなガムザッティを踊るのだろうか、と勝手に想像していたが良い意味でとても気の強い、プライドを守ることを何より尊重している気位の高さがみえて、たおやかなオデットを踊る時とはまた違う魅力にあふれていた。
戦士ソロルはデニス・ニェダク。2005年からキエフ・バレエでソリストを務めている。マツァークのニキヤ、フィリピエワのガムザッティを相手に強靭なテクニックで軽々と踊った。マネージュなども非常に滑らかで、スタミナがありパワーが感じられてかつ丁寧な踊りだった。
ふたりの女性にはさまれて苦悩する演技などでもう少し深みがあるともっといいかと2幕までは思っていたが、それはすぐに3幕の冒頭で打ち消された。ひたすらに現実から逃避してニキヤを思いながらアヘンを吸うソロルの姿は、自分の行動がどういった結果をもたらすか考えなかったからこそ、ニキヤもガムザッティも失う事態を招いた、というソロルの人間像が浮き上がってきて説得力があった。
「影の王国」の場面は、ヒマラヤから次々と群舞のダンサーが降りてきて踊られる静謐で美しいアンサンブルだ。バランスでほんの少しぐらつくダンサーがいたものの、概ねアラベスク、パンシェはよく揃っていて幻想的で美しかった。黄泉の国と言おうか、東洋的かつ神秘的なこの場面、白一色の透明なあの世の世界は『白鳥の湖』の2幕アンサンブルなどとはまた違う趣でバレエの魅力を堪能できる。群舞が良いというのもこのカンパニーの良さのひとつだろう。
尚、指揮はミコラ・ジャジューラ、オーケストラはウクライナ国立歌劇場管弦楽団だったが、ダンサーの動きと音がよくあっていて耳に心地よい響きで安定していた。終始、観客が舞台によく集中しているのが見てとれた、とても良い演奏であったことも書き添えたい。
(2013年12月26日 東京文化会館)
写真:瀬戸秀美 写真提供:KORANSHA(すべて)