若手に受継がれるバレエと日本の精神文化、伝統芸能を融合したベジャールの『ザ・カブキ』
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ワールドレポート/東京
- 佐々木 三重子
- text by Mieko Sasaki
東京バレエ団
『ザ・カブキ』モーリス・ベジャール:演出・振付
クリスマス・イヴの出来事を描いた『くるみ割り人形』の公演が目白押しの年末、東京バレエ団は、昨年に続き、赤穂浪士の討ち入りの時期に合わせて、ベジャールが『仮名手本忠臣蔵』に基づき、忠誠心をテーマに振付けた『ザ・カブキ』を上演した。2014年に創立50周年を迎える東京バレエ団の記念シリーズの第1弾としての公演だった。
『ザ・カブキ』が初演から27年になるとは感慨深いが、西洋のバレエという技法に、日本の精神文化や伝統芸能の手法を融合した傑作として海外での人気も高い。それだけに、初演時に活躍したベテランから若手へと踊り継がれてきたわけだが、今回も、次代を担う若手を多く起用してフレッシュさを打ち出したという。初日の由良之助は若手の筆頭、柄本弾で、顔世御前は奈良春夏。二人とも既に海外でも評価を得ている。2日目も若手で、由良之助には森川茉央が、顔世御前には渡辺理恵が抜擢された。共に今回が初役という2日目を観た。
『ザ・カブキ』は、若者たちがたむろする現代の東京を伝えるプロローグで始まり、若者のリーダーがタイムスリップして『仮名手本忠臣蔵』の世界にまぎれ込んで由良之助となり、四十七士を率いて主君・塩冶判官の仇を討ち、切腹して果てるまでを描いている。
「兜改め」「殿中松の間」「判官切腹」「雪の別れ」「討ち入り」など、九つの場で構成されている。中には「山崎街道」など、歌舞伎を知らない人には分かりにくい部分もあるが、判官の厳かな切腹の場面、義士たちが連判状にそろって血判を押すシーン、由良之助と遊女に身を落としたおかるが黒子に浄瑠璃人形のように操られる姿、クライマックスの討ち入りなどに、日本の文化を鮮やかに咀嚼したベジャールの手腕がうかがえる。
Photo:Kiyonori Hasegawa
Photo:Kiyonori Hasegawa
森川は、由良之助の役を演じたくて東京バレエ団に入団したというだけに、演じ方をイメージしてみることがあったのだろう、落ち着いた演技だった。すらりとした長身の森川は、まず現代の若者のリーダーとして凛とした居ずまいを見せたが、四十七士のリーダーとしてはやや控え目に映った。もちろん、由良之助として判官切腹の後や血判状の後、寛平の切腹の後のソロで、力強いジャンプで舞台を駆け巡り、高揚する心の内を伝えていたが、そこに、判官や寛平に対する錯綜する思いや仇討ちの確固たる決意をもっと強く打ち出せればと思う。だが、精神的、身体的に要求されるものが多いだけに、初役としては立派。場数を踏めば、自然にこなれてくるだろう。
顔世の渡辺もプロポーションに恵まれている。感情を露わにする役ではないだけに演じるのは難しそうで、「兜改め」などでは、身体をしなわせて微かに心の内を伝える程度で、淡々としていた。だが「雪の別れ」では、純白の総タイツの身体をたわめ、脚を振り上げて由良之助に仇討ちを促す様が、煽るような音楽(作曲・黛敏郎)と相まって哀しみを誘った。きっと、この落差も計算していたのだろう。
摺り足や腰を落としての演技、隈取や衣裳など、バレエにはない日本的な要素が採り入れられているだけに、ダンサーたちは戸惑うことも多かったに違いない。癖のある脇役を演じた師直の原田祥博や伴内の岡崎隼也など、ぎこちなさはあったが、誇張された所作をこなそうと懸命に取り組んでいた。「討ち入り」での入戸野伊織の第2ヴァリエーションも印象に残った。左右から走り入る義士たちが整然と逆三角形に隊を組んで討ち入りに臨むシーンから、本懐を遂げて潔く切腹して果てる幕切れまで、スペクタクルとして見応えがあるだけでなく、日本人の美意識を伝えているように思えた。
(2013年12月15日 東京文化会館)
All Photos:Kiyonori Hasegawa