歌ひと筋に生きたひばりの功績をたたえ、その愛と哀しみを多彩なバレエで描いた『HIBARI』
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掲載
ワールドレポート/東京
- 佐々木 三重子
- text by Mieko Sasaki
NBAバレエ団
『HIBARI』リン・テイラー・コーベット:振付、ほか
国民的スターだった演歌歌手、美空ひばりの一生が、ブロードウェイで活躍する振付家、リン・テイラー・コーベットの手でバレエ化され、『HIBARI』のタイトルでNBAバレエ団により初演された。
日本滞在中、TVでひばりのドキュメンタリーを見て感動したテイラー・コーベットが、ひばりの生涯を是非ともバレエ化すべきとNBAバレエ団に語ったのがきっかけという。「演歌とバレエ」は、「水と油」ほどではないにしても、果たしてしっくりマッチするだろうかと思ったが、そんな心配は無用だった。ヒット曲の数々を、ナレーションや生前の映像を交えて多彩なバレエで彩りながら、次から次へとつないだ舞台は、歌に生涯を捧げたひばりの生き様を、まざまざとよみがえらせてくれたのである。
戦後の復興期に8歳でデビューした美空ひばり。NHKの「素人のど自慢」では歌った『リンゴの唄』が子供らしくないなどの理由で予選で落とされたが、歌唱の実力でスター街道を邁進。熱烈なファンに塩酸をかけられた事件や、短く終わった結婚生活、相次いだ肉親の死などの不幸にめげず、甥を養子に迎え、志も新たにステージに立ち続けた。『HIBARI』は、歌が生き甲斐だった彼女の52年の人生を、〈光〜デビュー〉〈愛〜スターへの道〉〈涙〜波乱万丈〉〈幸〜トリビュート〉の4部構成でたどるもの。上演時間は約1時間。
シルクハットに燕尾服で歌う幼い日のひばりや、晩年の東京ドームでのコンサート、飾らない人柄をしのばせるトークなど、懐かしい映像が効果的に用いられていた。ナビゲーターを務めた元宝塚スターの和央ようかは、堂々として存在感があった。ひばりの歌を数曲うたいもしたが、違和感なく溶け込んでいた。
竹内碧/皆川知宏 ©吉川幸次郎
幕開けは『悲しき口笛』を歌い踊るシルクハットに燕尾服のひばりの映像にシンクロするように同じ衣裳で踊り始める女性ダンサーたちで、『リンゴ追分』では着物姿の女性ダンサーたちが跳ねるようにステップを踏み、『おまえに惚れた』や『哀愁出船』では喜びや哀しみを表す情趣の異なる男女のデュエットが織りなされた。リズム感溢れる『お祭りマンボ』では、躍動的でパワフルな男性群舞に客席から手拍子が出た。ひばりが新境地を示した『真っ赤な太陽』では男性ダンサーたちに囲まれた竹内碧が華やかに舞い、孤独な心をうつす『悲しい酒』での関口祐美と二人の男性によるダンスにはシャープな感性がうかがえ、『愛燦燦』では大森康正と田澤祥子が情感豊かに踊った。病に苦しんだ晩年には触れず、全員参加の『人生一路』で、歌ひと筋に生きたひばりの功績をたたえるように終えたのも良かった。それにしても、心の琴線に触れる歌唱力に加え、演歌の枠を越えて多彩な歌を鮮やかにこなしたひばりの素晴らしさに改めて感じ入った。
ほかに、マーティン・フリードマン振付の『A Little Love』が再演された。こちらは、ジャズシンガー、ニーナ・シモンの5つの歌に振付けた小品で、田澤祥子と泊陽平、竹田仁美と大森康正、竹内碧と森田維央が出演。ソロで踊る曲もあったが、男女のペアによる抒情的なダンスが爽やかに映った。
(2015年6月13日 メルパルクホール)
浅井杏里/土田明日香/米津萌/李民愛 ©吉川幸次郎
関口祐美/土橋冬夢 ©吉川幸次郎