世田谷クラシックバレエ連盟が区立のオーケストラとジュニア合唱団とともに、素敵な『くるみ割り人形』を上演した

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

世田谷クラシックバレエ連盟

『くるみ割り人形』坂本登喜彦:演出・振付

世田谷クラシックバレエ連盟が世田谷フィルハーモニー管弦楽団、世田谷ジュニア合唱団とともに。坂本登喜彦の演出・振付『くるみ割り人形』を上演した。私は未見だが、坂本は2010年に『人形たちのクリスマス』、13年には『ヴェローナの恋人たち』を世田谷クラシックバレエ連盟に振付けている。また、かつて札幌舞踊会に『くるみ割り人形』全幕を振付けている。

雪の中から5体の人形たち(ナッツファイブ)が姿を現わす、というなかなか洒落れたオープニングだ。ドロッセルマイヤー(安村圭太)は、この5体の人形たちを連れて、クララ(山内彩未)をもうひとつの国へと導いていく。
クリスマスイブのパーティも全体よりも、部分、部分をクローズアップして見せ、物語を抽象化して表していた。ねずみの戦争は耳を着けたダンサーと人形たちの争いで、最後はクララが真っ赤なボクシンググローブで決着をつけ、くるみ割り人形が王子(プリンスドリーム、西野隼人)に変身するシーンにつながる。そして雪のシーンが終わると、下手に設えられた階段をクララと王子は登っていく。

世田谷クラシックバレエ連盟『くるみ割り人形』 川島麻実子、西野隼人 撮影/山廣康夫

川島麻実子、西野隼人 撮影/山廣康夫

マイムで見せるシーンはほとんどなく、ドロッセルマイヤーもねずみもすべてが踊りでキャラクターを表現する。このバレエのマイムの見せ場である、クララがネズミを倒したお手柄話も、ドロッセルマイヤーのアイディアで同行してきた5体の人形たちか踊りで表していた。
2幕のデヴェルテスマンはそれぞれ良かったが、4人で踊ったお茶の踊りとギゴーニュおばさんは姿を見せないが、全員が赤い靴を履いた子どもたちの踊り(リトルクラウン)が楽しかった。世田谷クラシックバレエ連盟の舞台で踊る子どもたちの、踊りのレベルの高さにはたいへん感嘆した。舞台に立つ以上、たとえ子どもであってもきちんと正確に踊らなくてはならないことは言うまでもない。その点、この舞台はとても素晴らしかった。

世田谷クラシックバレエ連盟『くるみ割り人形』 山内彩未、西野隼人、川島麻美子、安村圭太(左から) 撮影/山廣康夫

山内彩未、西野隼人、川島麻美子、安村圭太(左から) 撮影/山廣康夫

世田谷クラシックバレエ連盟『くるみ割り人形』撮影/山廣康夫

撮影/山廣康夫

そしてクララとドロッセルマイヤーが加わる花のワルツは、いく重にも豪華な踊りが展開しておおいに盛り上がった。その雰囲気を受けて、プリンセススウィート(川島麻美子)とプリンセスドリームのグラン・パ・ド・ドゥとなる。西野はしばしば坂本作品を踊っているだけあって、振付のツボを心得た踊り。川島は颯爽とした踊りで観客を魅了した。
2幕でこれといった物語の進展はなかったが、クララはくるみ割り人形に夢中になっていとおしむ気持ちを卒業して、一人で階段を登っていく、というエンディングで大団円を迎えた。振付家が雪国からきたからだろうか、雪の優しい肌触りに触れたような感覚が残る爽やかなバレエだ。美術もすっきりしていながら可愛らしい雰囲気を感じさせる、素敵な装置を提供していた。
ラストは、世田谷クラシックバレエ連盟の20周年を祝福するカーテンコールで会場が一体になった。オーケストラとジュニア合唱団も世田谷区立であり、区全体でアニバーサリーを祝っており、地域とバレエ団の良い関係か見えて心強いものを感じた。このように自治体とバレエ団が協力し合う形になれば、クラシック・バレエと観客との新しい接点が生まれる可能性があるのではないだろうか。今後も積極的な活動を期待したい。
(2016年11月6日 昭和女子大人見記念講堂)

世田谷クラシックバレエ連盟『くるみ割り人形』撮影/山廣康夫

世田谷クラシックバレエ連盟『くるみ割り人形』撮影/山廣康夫

撮影/山廣康夫

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