米沢唯がムンタギロフとパートナーを組んで踊った、新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団

『白鳥の湖』牧阿佐美:演出・改訂振付、マリウス・プティパ、レフ・イワノフ:振付

新国立劇場バレエ団の『白鳥の湖』は牧阿佐美の演出・改訂振付、装置・衣裳は南アフリカ出身でイギリスで踊り、バレエのデザインを手掛けるようになったピーター・ガザレットである。2006年に初演され、新国立劇場バレエ団のレパートリーとなり、再演を重ねている。

米沢唯のオデット/オディール、ワディム・ムンタギロフのジークフリート王子で観ることができた。3組のキャストが組まれていて、他は小野絢子/福岡雄大、長田佳世/奥村康祐だった。
ムンタギロフは落ち着いた演技で1幕を終えた。小顔でスタイルが良く温和な性格が自然と顕れているような佇まいを見せた。2幕では米沢のオデットとアダージオを踊ったが、お互いにパートナーとしてのバランスもなかなか良く、全体に情感のある良い演舞だった。ただ米沢のほうが少しだけ固く感じられた気がしないでもない。米沢の描くラインは正確だった。だが人間の王女が白鳥に姿を変えられ、なんとか人間の姿に戻ろうとして願っているが、どうしてもその希望を見出すことができない、という悲しみの余情がその踊りのラインにもう少し残って欲しい、と思った。客席から勝手なことを言わせてもらうと、感情の表出をさらにこころの深いところに蓄えて踊って欲しいと願う。また、そうした感想をもったからだろうか、3幕の蠱惑的な表情も、最も絶望的な4幕ももう少し表情を強調しても良いのではないだろうか。もちろん、基本的なスタイルは良くできているのだが、敢えて言うと、それぞれの幕ごとの変化をもっと顕著に強調して表現して欲しい、と期待を込めて感じた。
道化(八幡顕光)も健闘し良く踊っていたが、全体を引っ張って音楽と合体してしまうまでの強力なエネルギーは、いまひとつ感じられなかった。特に1幕は道化のみならず登場人物全員で、音楽を圧倒するくらいの舞踊のエネルギーを感じさせて欲しいとも思った。

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』 撮影/瀬戸秀美

撮影/瀬戸秀美

ルースカヤを踊ったのは、今年3月にバレエ研修所を終了したばかりの木村優里(ゆり)だった。7月1日に新国立劇場バレエ団にソリストとして入団したと発表された(今年ソリストとして入団したのは中家正博と彼女の二人)。木村優里は、大原芸術監督の抜擢に応えて、大きな頭の飾りを着けたルースカヤのヴァリエーションを落着いて踊り、なかなかチャーミングで観客を魅了した。大いに期待が持てる新人ソリストの出現だが、欲をいえば、音楽より先に動くくらいの大胆な気持ちで踊ってもらいたい、と思ったがこれもまた、観客の勝手な言い分である。
(2015年6月10日 新国立劇場オペラハウス)

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』 撮影/瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』 撮影/瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』 撮影/瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』 撮影/瀬戸秀美

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