ローラン・プティのエスプリがシュトラウスの名曲に乗って活き活きと踊られた『こうもり』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団

『こうもり』ローラン・プティ:振付

ヨハン・シュトラウスII世のオペレッタの傑作をローラン・プティが巧みに舞踊化した、新国立劇場バレエ団の『こうもり』(ヨハン・シュトラウスII世:音楽、ローラン・プティ:振付)は人気があり、度々再演されている。

今回は小野絢子のべラ、ABTプリンシパルのエルマン・コルネホのヨハン、福岡雄大のウルリックというキャストだった。福岡雄大はヨハンにも配されていたが(26日)、ウルリック役では、メイクも白塗りにして(2幕では両頬にピエロ風の赤丸まで付けた)コミカルに、いつもの王子役ではない役どころで奮闘した。プティはギャロップ風の快適なテンポで第1幕を振付けているが、その中でもウルリック役はさらにスピーディーに頭を回転させて動く。彼は亭主に不満を持つ人妻に密かに恋しているが、二人を上手く元の鞘に収めるために呼び出された、というアンヴィバレンツな屈折した演技も求められる役だ。べラよりはいつも一歩先の表現をしなければならない。表情も極端にして動きとともに変化させなければならない。

新国立劇場バレエ団『こうもり』小野絢子、福岡雄大 撮影/鹿摩隆司

小野絢子、福岡雄大
撮影/鹿摩隆司(すべて)

小野絢子のベラは特にこの作品では光っている。コルネホのヨハンと福岡雄大のウルリックと別々に距離をとりながら、べラ自身の一貫したペースを守らないと表現にならないし、自身の魅力を最大限に発揮して気持ちが離れつつある夫ヨハンを自家薬籠中のものにしなければならない。この役を観客に説得力をもって演じることは、やはり難しい。そうしてみるとヨハン役は、夜な夜なこうもりに変身するという得体の知れない神秘的な役ではあるが、意外と一面的で演じ易いのかもしれない、と思った。コルネホにとっては、そのまま演じれば良かったかもしれない。

2幕からは絢爛たるワルツに乗って物語が展開していく。プティの演出も振付も見事。主役とコール・ドの入れ替わりなどは、もう名人芸と言っても良い。すべてがシュトラウスのワルツのリズムに流れるように流麗に繰り広げられ、飽きるところが終幕までまったくない。
軽妙洒脱でありながら、神秘的な女性の魅力と男性の欲望がソフィストケイトされて表されている。それをまた、新国立劇場バレエ団のダンサーたちが、品良く踊っていて素晴らしいのだ。
装置もシンプルだが、狭く簡単に抜け出せそうにない外の世界を象徴する窓の形、豪華さを感じさせるがテーブルと椅子以外何もないmaximの室内、そのシンプルさと良くマッチした衣装とデフォルメされた動きとが、音楽とともにアンサンブルを巧みに奏でていた。チャールダッシュやフレチカンカンの振付も洗練された素敵なものだった。メイドとウルリックのやりとりも気が利いていて洒落ている。つまりはローラン・プティのエスプリが、ヨハン・シュトラウスの名曲を得て、活き活きと表現されている作品なのである。
私としては、奥村康祐のウルリックを見たかったのだが、残念ながらキャストされていなかった。
(2015年4月13日 新国立劇場 オペラパレス)

新国立劇場バレエ団『こうもり』 小野絢子、福岡雄大 撮影/鹿摩隆司

小野絢子、福岡雄大

新国立劇場バレエ団『こうもり』 小野絢子、エルマン・コルネホ 撮影/鹿摩隆司

小野絢子、エルマン・コルネホ

新国立劇場バレエ団『こうもり』 小野絢子、エルマン・コルネホ 撮影/鹿摩隆司

小野絢子、エルマン・コルネホ

新国立劇場バレエ団『こうもり』撮影/鹿摩隆司(すべて)

ページの先頭へ戻る