マラーホフの指導が成果を示した東京バレエ団の『眠れる森の美女』
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ワールドレポート/東京
- 佐々木 三重子
- text by Mieko Sasaki
東京バレエ団
『眠れる森の美女』ウラジーミル・マラーホフ:演出・振付
東京バレエ団が創立50周年記念シリーズ第9弾として、昨年8月にアーティスティック・アドヴァイザーに迎えたウラジーミル・マラーホフの演出・振付による『眠れる森の美女』を上演した。東京バレエ団は2006年と2009年にマラーホフ版を上演しているが、マラーホフは2006年はデジレ王子役で客演し、2009年の時は王子とカラボスを交互に務めて注目された。今回はマラーホフが再びカラボスを演じるというのが話題で、実際、迫力満点の演技で舞台を牽引した。他の主要な役はダブルキャストで、初日の主役は上野水香と柄本弾、2日目は川島麻実子と岸本秀雄が務めた。バレエ団のトップスターが組んだ初日を観た。
マラーホフ版では、物語は舞台を覆い尽くすような美しい薔薇の庭園で繰り広げられる。球状の薔薇の植え込みから次々に妖精たちが現れるなど、薔薇の花が様々な形で採り入れられた美術や衣裳は優雅で、おとぎ話の世界に誘うよう。
プロローグの後、幕前で幼いオーロラ姫を襲おうとするカラボスとそれを阻止するリラの精を見せたり、第2幕冒頭の貴族たちの狩りの場面を省いてオーロラと王子の出会いに焦点を当てたりするなど、分かりやすくスピーディーな展開になっている。
最大の特色は、カラボスが呪いに用いるのを糸紡ぎの針ではなく、薔薇の棘に変えたことだろう。そうすると、薔薇の庭園で成長するオーロラは絶えず危険にさらされていることになる。また、カラボスは悪の象徴として、善を象徴するリラの精と対峙して描かれているが、真から邪悪なわけではなく、ちょっとしたきっかけで悪に転じてしまうような人間の弱さを描いているようにみえた。そんな弱さを薔薇に潜む棘で暗示したようにも思えた。スカート姿で舞伎の隈取りのようなメイクを施したカラボス役のマラーホフが、指先に呪いをこめ、怒りも露わに闊歩するだけでなく、つんと澄ましたり、すねたりする様にどこか親近感が持てたからである。最後の結婚式の幕切れ近く、カラボスが舞台を横切るとき、すべてが一瞬止まるが、これは、世の中どんな危険が潜んでいるかわかりませんよと注意を促しているのだろうか。
上野水香、柄本弾
撮影:長谷川清徳(すべて)
沖香菜子、梅澤紘貴
奈良春夏、ウラジーミル・マラーホフ
川島麻実子、岸本秀雄(2/8)
オーロラ姫の上野は、初々しさの中に華やかな雰囲気をたたえて登場。ローズ・アダージオでは楚々とした態度で王子たちに接し、バランスも滑らかにこなした。デジレ王子との端正な踊りにも余裕がうかがえた。
デジレ王子の柄本は颯爽として、ジャンプも冴え、滑らかに演技を紡いでいった。リラの精を演じた奈良春夏は優しさの中にもパワーをたたえ、善の勝利を疑わない強さをみせた。結婚式の場では、フロリナ王女を踊った沖香菜子のしなやかな演技が際立ち、青い鳥の梅澤紘貴も柔らかな跳躍で応じた。プロローグでの妖精たちの踊りや結婚式での宝石の精たちの踊りも遜色なく、粒ぞろいだった。アンサンブルも含め、指先や腕の表情をはじめ脚さばきにまで神経が行き届いており、総じて完成度が高く、古典バレエの魅力を伝える舞台になっていた。そこにマラーホフの優れた指導力が感じられた。
(2015年2月7日 東京文化会館)
中川美雪、入戸野伊織(2/8)
三雲友里加(2/8)
撮影:長谷川清徳(すべて)