バランシン、ドゥアトとロバート・ノースの『トロイ・ゲーム』を新制作したトリプルビル

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団「トリプルビル」

『テーマとヴァリエーション』ジョージ・バランシン:振付、
『ドゥエンデ』ナチョ・ドァト:振付、『トロイ・ゲーム』ロバート・ノース:振付

新国立劇場バレエ団の2015年最初の「トリプルビル」は、バランシン振付『テーマとヴァリエーション』から始まった。この作品は2000年に新国立劇場バレエ団のレパートリーに入った。恐らく新国立劇場バレエ団が最初に採り入れたバランシン作品だろう。
チャイコフスキーの「管弦楽組曲第3番」の最後の第4曲に、1947年、バランシンが振付けた。プリンシパルを米沢唯と菅野英男が踊った。ダンサーたちは正確なポジションと正しいステップにより、音楽と同調するフォーメーションを組み立てて分れ、また組み立てていく。その動きの流れが美しく見事だった。

「テーマとヴァリエーション」米沢唯、菅野英男 撮影/鹿摩隆司

「テーマとヴァリエーション」米沢唯、菅野英男

「テーマとヴァリエーション」米沢唯、菅野英男 撮影/鹿摩隆司

「テーマとヴァリエーション」米沢唯、菅野英男

撮影/鹿摩隆司(すべて)

次は『ドゥエンデ』。ドビュッシーのフルートやハープの曲4曲にナチョ・ドュアトが振付けたものだが、「パストラル」「シランクス」「フィナーレ」「神聖な舞曲」「世俗の舞曲」という5つのパートから構成されている。
「驚くほど重心が低かった」と初めて踊った時の感想を新国立劇場のダンサー、本島美和がいうように、関節を深く曲げてフロアに腰を落としたり、床に手を着いて足を高く上げるなどの動きが多用されている。その動きがドビュッシーの曲独特の煌びやかで駘蕩的とも言うべきメロディーとともに踊られると、ちょっとノスタルジックで、甘さのある不思議なロマネスクな感覚が舞台上に漂う。動きに色彩が絡みつくかのようでもあった。また、振付家自身が「彫刻的」というように、身体が立体的に使われていることも特徴的だ。ソロ、パ・ド・ドゥ、パ・ド・トロワ、パ・ド・シスと構成されていた。
『トロイ・ゲーム』はアメリカ人でマーサ・グラハムの下で踊り、その後、ロンドンのバレエ・ランベールの芸術監督などを務めたロバート・ノースが振付けている。作品、振付家ともに新国立劇場バレエに初登場である。

「ドゥエンデ」丸尾孝子、福岡雄大 撮影/鹿摩隆司

「ドゥエンデ」
丸尾孝子、福岡雄大

音楽はボブ・ダウンズ、ハトゥカーダによるパーカッションを主体としたブリティッシュ・ロックとブラジルの音をミックスしたような曲。8人の腕や肩、脛に防具を着けた格闘技手のような衣裳を着けた男性ダンサーが組んずほぐれつ踊る。集団で組み体操の形を作り、突発的に崩したり、流れるように崩したり、あるいはペアを組んで(男性ダンサー同士)ユニゾンした動きを組み合わせたり、次々と変化させて観客の関心を繋ぎとめる。ロンドンのコンテンポラリー・ダンスの中心地「The Place」で、ノースのこの作品を踊り、今回公演のステイジングを務めるジュリアン・モスがプログラムで語っているように「ブラジル音楽に合気道やカポエイラをミックスさせたダンス作品」なのだが、ダンサーが観客に向かっておどけたりするユーモアを時折交えている。マチッヨを揶揄しているのだが、ジムナステックな笑いで特に深いカリカルチュアがあるわけではない。男性ダンサー同士のこうしたややB級的ともいえるユーモアは、ヨーロッパではある種の人気があるのだろう。
男性ダンサーのエチュードとしてアンサンブルを訓練する作品にはあるいは適しているかもしれないが、今まで取り組んできたバランシンやフォーキン、ニジンスカ、さらにジェシカ・ラングなど、舞踊の主流に繋がる作品を強化することが、まず優先されるべきだろうと思われる。確かにエンディングでは観客に受けていたのだが、私は、今後のコンテンポラリー・ダンス作品の導入については、もう少し良く考えたほうがいいのではないか、と思った。
(2015年3月15日 新国立劇場 中劇場)

「ドゥエンデ」丸尾孝子、小口邦明 撮影/鹿摩隆司

「ドゥエンデ」福岡雄大、福田圭吾、池田武志

「ドゥエンデ」福岡雄大、福田圭吾、池田武志 撮影/鹿摩隆司

「ドゥエンデ」丸尾孝子、小口邦明

「トロイゲーム」 撮影/鹿摩隆司

「トロイゲーム」

「トロイゲーム」 撮影/鹿摩隆司

「トロイゲーム」

撮影/鹿摩隆司(すべて)

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