加瀬栞の美しい踊りと魔法と現実がダイナミックに入れ替わる素晴らしい演出

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

K-BALLET COMPANY

『シンデレラ』熊川哲也:演出・振付

K バレエカンパニーの熊川哲也演出・振付『シンデレラ』を加瀬栞のシンデレラ、宮尾俊太郎の王子、浅川紫織の仙女で観た。『シンデレラ』は、熊川哲也がオーチャードホールの芸術監督に就任した2012年に初演された。この作品では初めて熊川は演出・振付に徹し、出演しなかった。今回は2年ぶり3回目の上演となった。
加瀬栞は昨年のジャクソン国際バレエコンクールで金賞を受賞し、大きな注目を集めたことは記憶に新しい。現在は、タマラ・ロホが芸術監督を務めるイングリッシュ・ナショナル・バレエ団(ENB)でファースト・ソリストとして活躍している。
加瀬栞が登場して最初のステップを踏んだだけで、良く鍛えられた脚の美しさが目を惹いた。身長はそれほどは高くはないのだが、速いステップもごくさり気なく楽々とこなし余裕綽々。動きがじつに自然でバレエの型を感じさせないくらいスムーズなので、思わず見とれてしまった。そして何より動きがすべて若々しく瑞々しい。溌剌としているのだ。ただ少しだけまだ主役を踊った経験が少ないのかもしれない、とも思った。宮尾俊太郎の王子は、遅沢佑介の怪我のために急遽、変わったもの。加瀬栞とは初共演となった。

熊川版の『シンデレラ』の演出は、魔法と現実がめくるめくように変換して、我を忘れさせるかのようだった。熊川版の『くるみ割り人形』もそうだったが、演出が美術とじつに良くコラボレーションしていて、現実と魔法のダイナミックな変換が鮮やかで、舞台芸術が持つ魅力を遺憾なく発揮している。
仙女が最初に魔法を使うところでは、薔薇、トンボ、キャンドル、ティーカップなどシンデレラの日々親しんでいる小物が妖精となって現れ、まるでシンデレラが義母義姉妹に虐められているにも関わらず健気に生きていることを祝福するように、宮殿へと導いて行く。そして美しいドレスを纏ったシンデレラを乗せる光り輝く馬車を挽くのは4頭のトナカイで、御者はユニコーン。完璧なファンタスティックなイメージで、魔法の宮殿へと迎えられるのにふさわしい景色が整えられていた。そしてラスト・シーンで登場する馬車からはユニコーンは消え、馬車を挽くトナカイは人間の姿にになっていた。

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』王子:宮尾俊太郎、シンデレラ:加瀬栞 撮影/小川峻毅

王子:宮尾俊太郎、シンデレラ:加瀬栞
撮影/小川峻毅

宮殿の中で王子がシンデレラを見失うシーンや、二人の道化が長針と短針を手持ちで12時を告げるシーン、シンデレラが元の貧しい姿に変わってしまうシーンなども、それぞれにアイディアが生かされていて鮮やかだった。
また、義母役の元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル・キャラクター・アーティストのルーク・ヘイドンがさり気なく上手い。シンデレラが敬慕する亡くなった母の写真を、あっさりと燃え盛る暖炉へと投げ捨てる演技などは、憎々しげでさすがに巧み。宮殿のシーンでも、観客が王子の登場を今か今かと待ち望んでいるその時に、堂々とグラスを手に姿を現したり・・・舞台進行の要所を押さえた演技だった。浅川紫織の仙女も落ち着いて舞台を導いた。ティーカップの精を踊った佐々部佳代のすっきりとした踊りが目を惹いた。
(2015年3月20日 Bunkamura オーチャードホール)

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』シンデレラ:加瀬栞 撮影/小川峻

シンデレラ:加瀬栞

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』仙女:浅川紫織 撮影/小川峻毅

仙女:浅川紫織

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』シンデレラ:加瀬栞 撮影/小川峻毅

シンデレラ:加瀬栞

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』撮影/小川峻毅

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』撮影/小川峻毅

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』撮影/小川峻毅

撮影/小川峻毅(すべて)

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