人類の大命題が近未来世界でスパークする、シェルカウイ演出・振付の『プルートゥ PLUTO』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

『プルートゥ PLUTO』

原作:浦沢直樹×手塚治虫、長崎尚志プロデュース、監修/手塚眞、協力/手塚プロダクション
シディ・ラルビ・シェルカウイ:演出・振付

シディ・ラルビ・シェルカウイが演出、振付けた『プルートゥ PLUTO』が初演された。シェルカウイにとっては2012年の『テヅカ TeZukA』に続く、手塚治虫の漫画に関わる舞台である。原作は手塚治虫が1952年から68年にかけて連載した大ヒット作『鉄腕アトム』を発展させた人気漫画『PLUTO』だ。
物語は人間とロボットが共存する時代を背景に展開される。
大量破壊兵器となりうる7体しかない世界最高水準のロボット5体(スイスのモンブラン、トルコのブランド、ギリシャのヘラクレス、スコットランドのノース2号、オーストラリアのエプシロン)が、次々と何ものかにより破壊される、という衝撃的な事件が起こる。残るのは日本のアトムとドイツの高性能刑事ロボットで、ユーロポールの特別捜査官であるゲジヒト。ゲジヒトがアトムと協力してが捜査を進める中で、過去の紛争とそれに対する空爆を背景とする拭いがたい憎悪の連鎖が浮かび上がる。情報を交換しあったアトムとゲジヒトは、地球をも破壊する危険な事態に直面する・・・そしてアトムはたいへんな窮地に追い込まれる・・・。

まず、物語自体が非常におもしろいのだが、この舞台ではシェルカウイの才気あふれる演出が見もの。漫画の駒割りという表現を二次元と三次元、時間の平行進行と飛翔を自在に往来させながら、壮大かつ錯綜した物語を展開していく。物語の背景には、キリスト教社会とイスラム世界という人類史上最大にして最も根深い対立が感じられる。(それはモロッコ系ベルギー人というシェルカウイ自身が直面しているものでもある)そこに「憎しみを理解できるロボット」は存在するのか、という近未来的かつ切実なテーマがスパークするから、じつにエキサイティングなパフォーマンスとなる訳だ。

「プルートゥ」森山未来 撮影/小林由恵

森山未来 撮影/小林由恵

表現手法も、演劇にもダンスにも囚われることなく斬新だ。ロボットの動きは文楽人形よろしく操り手を登場させて見せる。そこには漫画の誌面上でしばしば使われる効果(例えば驚きや怒りを表わす効果線や☆のようなものなど)も含まれている。人形振りも自在に織り込まれている。
またH.R.ギーガーのおどろおどろしくシュールなイラストを彷彿させるロボットのデザインも見事だったが、その動きもまた巧みに作られていた。ラスト近くのアトムとブラウ1589の闘いは、まさに息をのむ迫力だった。
森山未來の鋭い動きを含めた表現能力は抜群。全身で感情や魂とは無縁で、人間の形をしているということの不条理を表して見事だった。ウランとゲジヒトの妻ヘレン役を演じた永作博美の落ち着いた演技にも感心した。寺脇康文のゲジヒトも終始舞台をリードして安定していた。
発想はとび抜けていて極めて魅力的だが、現実の舞台を作ることになると難題がつぎつぎと持ち上がる漫画を、このように自由闊達に舞台表現として発展させることが可能であれば、日本には無尽蔵のダンス素材がある。
(2015年1月11日 Bunkamura シアターコクーン)

「プルートゥ」 撮影/小林由恵

「プルートゥ」永作博美、森山未来 撮影/小林由恵

永作博美、森山未来

「プルートゥ」永作博美、寺脇康文、森山未来 撮影/小林由恵

「プルートゥ」永作博美、寺脇康文、森山未来
撮影/小林由恵(すべて)

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