ダンスが氾濫し舞台からこぼれ落ちるような、ボリショイ・バレエ会心の舞台『ドン・キホーテ』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

THE BOLISHOI BALLET ボリショイ・バレエ団

"Don Quixote" Choreography by Marius Petipa and Alexander Gorsky, New choreographic version by Alexei Fadeyeehev
『ドン・キホーテ』マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴールスキー:原振付、アレクサンドル・ファジェーチェフ:振付

『ドン・キホーテ』は、マリウス・プティパ振付、ルートヴィヒ・ミンクスの音楽により1869年モスクワのボリショイ劇場で初演された。以来、1900年のゴールスキーの改訂を経てボリショイ劇場の伝統に培われ、ダンサーと観客ともどもに愛され発展してきた。ファジェーチェフも公演プログラムの中でのべているように、「楽天的なにぎやかさ、演劇性と即興の余地はモスクワ流派とボリショイ劇場のダンサーの特徴」であり、『ドン・キホーテ』こそはボリショイ劇場のバレエ団に最もふさわしい作品と言えるだろう。そしてこの日の舞台も、このボリショイ劇場版の『ドン・キホーテ』が世界のスタンダードと見做されることにまことにふさわしかった。

『ドン・キホーテ』を踊るボリショイ劇場のダンサーは、まさに水を得た魚のよう。キトリ、ドゥルシネアに扮し踊ったのは、エカテリーナ・クリサノワ、バジルはミハイル・ロブーヒンだった。そして街の踊り子がアンナ・チミホロワ、メルセデスはオクサーナ・シャーロワ、森の精の女王がアンナ・ニクーリナ、エスパーダはルスラン・スクヴォルツォフだった。
プロローグでちょっと待たされたが、後はもう溢れ出るようなダンスの氾濫だった。まさに、ボリショイ劇場が伝統的に作り上げた改心のバレエといって良い。
クリサノワは余裕たっぷり愛嬌のある笑顔を振りまき、舞台狭しと踊った。おでこと耳の脇に髪をカールするお決まりのメイクが、とても良く似合ってキャラクターを引き立て魅力的だった。ボリショイ・バレエ団のダンサーとしてはやや小柄だが、抜群の運動神経の持ち主らしく軽やかでシャープ、決め技もきれいに決まる。ロブーヒンはワガノワ・バレエ学校出身で2010年にマリインスキー劇場から移籍してきたダンサーだが、現在はペトゥホフに師事しているという。もうすっかりボリショイの水に馴染んでいて、パートナーシップもきちんとつくり、クリサノワをしっかりと引き立てて踊った。ボリショイ・バレエ団らしい高いリフトも息があって完璧にこなし、見応え充分のキトリ&バジルだった。街の踊り子、メルセデス、森の精の女王、エスパーダにも主演級のダンサーが踊り、それぞれ特徴を表現して良かった。

「ドン・キホーテ」エカテリーナ・クリサノワ、ミハイル・ロブーヒン 撮影/瀬戸秀美

クリサノワ、ロブーヒン 撮影/瀬戸秀美

ジプシーの踊り、スペインの踊り、ボレロも活き活きと踊られて、ボリショイ・オーケストラの演奏とも一体化して見事だった。これだけの踊りのボリュームがつぎつぎと踊られる舞台は少ないのではないかと思う。プリンシパルとソリスト、そしてコール・ド・バレエのアンサンブルが絶妙で舞台に隙がない。時の過ぎるのをしばし忘れた幸せな一夜だった。
(2014年12月6日 東京文化会館)

「ドン・キホーテ」エカテリーナ・クリサノワ、ミハイル・ロブーヒン 撮影/瀬戸秀美

「ドン・キホーテ」エカテリーナ・クリサノワ、ミハイル・ロブーヒン 撮影/瀬戸秀美

 

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