アダム・クーパー以外新しいキャストで演じられた『兵士の物語』で、モレーラの存在が光った

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

STRAVINSKY'S "THE SOLDIER'S TALE" 
英国ロイヤル・オペラ・ハウス版 ストラヴィンスキー『兵士の物語』

"THE SOLDIER'S TALE" Dircted & Choreographed by Will Tuckett
『兵士の物語』ウィル・タケット:演出・振付

アダム・クーパーが主演しウィル・タケットが演出・振付けた、ストラヴィンスキーの『兵士の物語』が、キャストと指揮者を変えて再度、来日公演を行った。この舞台は2004年にロイヤル・オペラ・ハウスが制作し、コヴェントガーデンのリンブリー・スタジオで初演された。前回の日本公演は2009年で、アダム・クーパーが兵士、ウィル・ケンプがストーリーテイラー、マシュー・ハートが悪魔、ゼナイダ・ヤノウスキーが王女とフィアンセ、というキャストだった。

今回の公演ではアダム・クーパー以外の主役を変更し、ストーリーテイラーがサム・アーチャー。マシュー・ボーンのニュー・アドヴェンチャーに参加し『ザ・カー・マン』『シザーハンズ』などに出演している。悪魔はアレクサンダー・キャンベル。英国ロイヤル・バレエのファーストソリストで『不思議の国のアリス』などに出演し、来日公演でもたびたび踊っている。そして王女とフィアンセ役には英国ロイヤル・バレエのプリンシパル、ラウラ・モレーラが出演した。アダム・クーパーはキャストが変わったことによって、兵士のキャラクターも影響を受けて変わっていくことが興味深かった、という。

「兵士の物語」アレクサンダー・キャンベル、サム・アーチャー、アダム・クーパー 撮影:阿部章仁

撮影:阿部章仁

さらに指揮者がアンディ・マッシーに替わり、台詞やダンスのリズムが変わり音楽のテンポも変わる。そして「ストラヴィンスキーのもともと持っていたアイディアにより忠実なものになっていくはず」だ、とマッシーは言っている。『兵士の物語』は、第1次世界大戦中のスイスで生まれた。もともと大編成のオーケストラや大規模なセットなどが使えない状況の中で、小編成のツアーにより上演し易いように考案された舞台なのだ。物語自体も兵士が次々と旅をしながら展開していくわけであり、観客の意識を運んでいく上でも舞台全体のリズムがたいへん重要である。おそらく、タケットはその点に注力して再演を試みようとしたのではないだろうか。
実際、今回の舞台は快適なテンポで進行した。アダム・クーパーの手慣れたリードで、ストーリーテイラーのアーチャーとのやりとりにも陰影がうまく現れていた。そして特に、モレーラの存在の雰囲気が舞台全体をやわらかく包んでいるかのようで良かった。ヤノウスキーはキャラクターが強烈でそれが生きる場合もあるが、ここではアダム・クーパーと火花を散らすかのようなところが感じられた。その点、モレーラの女性らしさがこの男性的な舞台でより光った。モレーラも台詞付きの舞台は初めてだったので緊張したと言うが、台詞で見せるシーンは少なかったし上手く演じていた。
そうした男性的・女性的な二元的世界がはっきりと描かれたことにより、ラストの悪魔が出現するシーンがより効果的だった。
(2015年7月24日 東京芸術劇場プレイハウス)

「兵士の物語」ラウラ・モレーラ、アダム・クーパー 撮影:阿部章仁

「兵士の物語」ラウラ・モレーラ、アダム・クーパー 撮影:阿部章仁

 

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