古典名作バレエを子ども向けに楽しく短縮した『ドン・キホーテの夢』<めぐろバレエ祭り>

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子
text by Mieko Sasaki

東京バレエ団

子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』

東京バレエ団が、〈めぐろバレエ祭り〉の一環として新制作した"子どものためのバレエ"『ドン・キホーテの夢』を上演した。このバレエ祭りは、同バレエ団を運営する日本舞台芸術振興会(NBS)が東京・目黒区に本拠を置くこともあり、バレエの普及を図り、目黒をバレエの街としてアピールしようと立ち上げたもの。第3回を迎えた今年は、メインの2作の"子どものためのバレエ"の公演のほか、子どもや大人のバレエ初心者のための体験講座(「お父さんといっしょ」も!)やバレエ団のダンサーによる公開レッスン、さらに小林十市の振付による"BON踊り"など、楽しそうな盛りだくさんの内容で、バレエの裾野を広げたいという主催者の思いが感じられる。"子どものためのバレエ"は、人気の全幕作品を休憩を含めて2時間弱に短縮し、登場人物の一人をナビゲーターに仕立てて物語を面白おかしく解説させるのがミソ。『ドン・キホーテの夢』は『ねむれる森の美女』に続く2作目である。主役は、バレエ団の看板といえる上野水香&柄本弾のペアと、若手の沖香菜子&梅澤紘貴のペアのダブルキャスト。その若手組を観た。

『ドン・キホーテの夢』は、ワシーリエフ版『ドン・キホーテ』のストーリーラインと振付に基づきながら、細かいエピソードや登場人物の一部を省いて簡略化した。一方で、ドン・キホーテの愛馬ロシナンテを登場させ、従者サンチョ・パンサと仕草での掛け合いを演じさせ、白馬の花嫁とのゴールインも用意するなど、子どもの興味を引く工夫がなされていた。もちろん本物の馬ではないが、リアルな馬の頭に加え、二人のダンサーが演じる前脚と後ろ脚の所作も表情豊かで愛らしかった。最初にサンチョ・パンサがロシナンテを連れて客席通路に現れ、語り始めるという演出は、観客との距離を近づける効果があった。メルセデスやドリアードの女王の踊りはカットしたが、布にのせられたサンチョ・パンサが宙にほうられるスペクタクルなシーンは残したのも、子ども対象の公演だからだろう。

ダンサーでは、キトリの沖とバジルの梅澤の息の合った演技が瑞々しく映った。沖は脚を高く振り上げ、足の甲もきれいにみせる。夢の場では高度な技を優雅に踊り、グラン・パ・ド・ドゥでも安定した脚さばきをみせた。バジルは引き締まった脚で切れ味の良いジャンプや回転技をみせ、キトリを片手で高くリフトし、フィッシュダイブも楽しげに決めていた。ドン・キホーテの木村和夫はこのヴァージョンでは控え目な存在になっていたが、サンチョ・パンサの氷室友は軽妙な語り口で物語の案内役を務めるなど、大活躍だった。

東京バレエ団 子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』撮影:長谷川 清徳

撮影:長谷川 清徳

エスパーダの森川茉央のパワフルな踊りと、キューピッドの松倉真玲の端正な演技が華を添え、対照的に、岡崎隼也がキザなガマーシュをコミカルに演じて笑いを誘った。東京バレエ団は『ドン・キホーテ』を7月末に上演しており、10月末にはこの沖&梅澤ペアで上演する予定とあって、今回のダイジェスト版の公演でも手を抜くようなことはしておらず、見応えのある舞台に仕上げていた。それにしても、〈めぐろバレエ祭り〉は「観る」「踊る」「楽しむ」「学ぶ」をモットーとしているだけに、今後どう発展するのか期待される。
(2015年8月22日昼 目黒パーシモンホール)

東京バレエ団 子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』撮影:長谷川 清徳

撮影:長谷川 清徳

東京バレエ団 子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』撮影:長谷川 清徳

撮影:長谷川 清徳

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