アンナ＝マリー・ホームズは、カナダ出身だがレニングラード（現サンクトペテルブルク）で、ナタリア・ドゥジンスカヤ、アレキサンダー・プーシキン（バリシニコフを育てた名教師）に師事し、北米人では珍しくキーロフ・バレエ（現マリンスキー・バレエ）で踊った。その後、『くるみ割り人形』『シンデレラ』ほかのロシア・バレエを振付た。特に『海賊』はABTでも上演されて高く評価された。1997年にはボストン・バレエ団の芸術監督に就任した。今回の『ドン・キホーテ』もABTのヴァージョンに基づいている。そして、アンナ＝マリー・ホームズのヴァージョンは、スペイン舞踊とバレエを融合して見せようという試みが感じられる。
実際、NBAバレエ団の『ドン・キホーテ』は、男性ダンサーのソリストをたくさん登場させて力強い舞踊を見せる。もちろん、女性ダンサーたちも負けてはいない。セキジリア、トレアドールの踊り、ジプシーの踊り、フラメンコ、さらには夢の場の踊り、ファンダンゴなどが、レオン・ミンクスのお馴染みの曲にのって、主役の踊りや脇役のマイムと渾然一体となって次々と踊られて、舞台はスペインの踊りが発散する熱い情熱で溢れるようだった。また、第３幕の冒頭ではサパティアードと手拍子に、パーカッションでアクセントを付けただけの音で踊るモダンなダンスシーンも登場し、舞台に陰影を与えた。

オブラスツォーワ、大森康正
撮影／吉川幸次郎（すべて）

オブラスツォーワ

エフゲニー・オブラスツォーワは、2012年にマリインスキー・バレエからボリショイ・バレエにプリンシパルとして移籍しているが、マリインスキー時代からキトリ役は、彼女が得意とするところだった。この舞台でもさすがに全幕にわたって安定したレベル高い踊りを見せた。女性的で柔らかさがあり、独特の雰囲気を持つ魅力的なダンサーだ。かつてマリインスキー時代の彼女にインタビューした折りに、ボリショイ・バレエの名ダンサー、エカテリーナ・マクシーモワに印象が似ていると思う、というと「彼女は私の大好きなダンサーで尊敬している、ヴィデオもたくさん持っている」と答えていた。マクシーモアの愛らしさを受継いだロシアのバレリーナと言っても良いかもしれない。

浅井杏里

長崎真湖

竹内碧

大森康正

米倉大陽、鈴木貴久

米倉佑飛

オブラスツォーワ（ドルシネア姫）

第３幕

オブラスツォーワ、大森康正

米倉大陽、三船元維

オブラスツォーワ、大森康正