森下洋子と刑部星矢のペアが新鮮な魅力を発揮した、松山バレエ団『眠れる森の美女』

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子
text by Mieko Sasaki

松山バレエ団

『眠れる森の美女』清水哲太郎:監修(ヌレエフ版に基づく)

松山バレエ団が、第22回神奈川国際芸術フェスティバルの一環として『眠れる森の美女』を上演した。同バレエ団は今年5月にこの古典名作を7年ぶりに上演したばかりだが、会場となった神奈川県民ホールの開館40周年記念に当たることから、ホールに合わせて手を加え、"2015年神奈川県民ホール版"として上演した。

清水哲太郎の監修版はプティパの原振付によるヌレエフ版を土台にしているが、これまで通り彼ならではのアイデアが随所に息づいていた。プロローグの冒頭、オーロラ姫誕生のお披露目を控えて慌ただしい宮殿の様子を紗幕越しに伝える中、招待者のリストを確認しているらしい人物の姿も見せた。
第1幕冒頭では、悪の精カラボスの手下が城下の女たちに編み針を渡して編み物の面白さを教え、尖った物が禁止とは知らずに編み物をしていた女たちが捕らえられるという流れにしている。細部にこだわる清水らしい演出だ。ユニークなのは、第3幕の婚礼の場にデジレ王子の父王と王妃を登場させ、花嫁と花婿の両親が喜びを交わす場面を挿入したこと。なお、善を象徴するリラの精は華麗なロングドレスをまとって現れ、マイムで演技する。リラの精は「最上級神」、カラボスは「悪霊神」と記されていて驚いたが、恐らく善と悪の対立を強調しようとする清水の思いの表れなのだろう。ついでだが、オーロラ姫にお祝いを贈る妖精たちには「やさしさの精」「元気の精」などという名はつけられていない。

『眠れる森の美女』

今回は、ベテランの森下洋子が若手の刑部星矢とペアを組むことに関心が集まっていた。その森下は16歳のオーロラ姫のように愛らしく登場。ローズ・アダージョではバランスにやや不安を感じさせたが、恥じらいをみせながら求婚者たちに向き合っていた。幻影のシーンでは清楚に、結婚式では格調高く踊った。動きのスケールは以前と同じではないが、どのような仕草にも気品を感じさせたのはさすが。
一方の刑部は森の場面で颯爽と登場。いかにも清々しい王子で、アントルシェやピルエットを軽快にこなした。結婚式でも端正な踊りで、パートナーシップも丁寧に見えた。2人が組むのは初めて見たが、相性は良さそうだ。カラボスの徳丸千絵は迫力のある演技で存在感を示し、リラの精の境久美は堂々とした立ち姿で応じた。ただ、リラの精の大仰な衣裳は踊り手の動きを弱めてしまうように感じたし、また王様や王妃たちの衣裳も装飾過剰に映った。フロリナ王女の熊野文香と青い鳥の本田裕貴、猫の小菅紀子と木村祐作も好演。妖精たちの踊りでは、山川晶子や平元久美らベテランの踊りが安定感をもたらしていた。
今回、森下と刑部が組んだことは、互いを触発しただけでなく、舞台を活気づけてもいたようだ。この刺激がバレエ団にどのような効果をもたらすか、期待される。
(2015年10月24日 神奈川県民ホール)

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