バレエダンサーの精鋭が一堂に会して踊り、成熟した美を競ったオールスター・バレエ・ガラ

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

ALL STAR BALLET GALA Japan Arts 40th Anniversary

オールスター・バレエ・ガラ ジャパンアーツ40周年特別企画

ジャパンアーツ40周年特別企画「オールスター・バレエ・ガラ」が開催された。世界で活躍する超一流のバレエダンサーを一堂に会して、バレエ芸術の精髄を披瀝してもらおう、という企画。芸術監督はアレクセイ・ラトマンスキーだった。

まず、マイヤ・プリツカヤが旧ソ連時代の過酷な状況下で、バレエダンサーとしてのすべてをかけて創作した『カルメン組曲』よりパ・ド・ドゥを、ウリヤーナ・ロパートキナとアンドレイ・エルマコフが踊った。「身体性」という言葉は曖昧なところがあり一義的な意味を表しているとは言えないが、プリセツカヤとロパートキナの身体性は大きく異なって見える。ロパートキナのコンテンポラリーな身体が『カルメン組曲』を踊ると、また別の作品かと錯覚させるものがあった。クラシック・バレエにフラメンコなどのスペイン舞踊を大胆に取り入れた動きを、ロパートキナが踊ると、あたかもコンテンポラリー・ダンスを踊っているかのよう。独特の美しさを表しながら、ドン・ホセが身も心もカルメンの虜となっていく様が鮮やかに浮かび上がって見えた。

『カルメン組曲』ロパートキナ、エルマコフ 撮影:瀬戸秀美

『カルメン組曲』撮影:瀬戸秀美

ニーナ・アナニアシヴィリはマルセロ・ゴメスと『ジゼル』第二幕のパ・ド・ドゥを踊った。ゴメスの卓越した表現力がアルブレヒトの深い想いを見事に造型し、ジゼルのウィリーを演じるアナニアシヴィリの霊に響いた、と観客には見えただろう。『Tango y Yo』はエルマン・コルネホの自作自演のソロ。ピアソラの音楽に軽快なピルエットを連ねて奔放なラインを辿り「タンゴの動き」を描いてみせた。
スヴェトラーナ・ザハーロワとミハイル・ロブーヒンは、『トリスタンとイゾルデ』よりデュエット「トリスタンとイゾルデ」を踊った。この作品はポーランド国立バレエ団の芸術監督クシシュトフ・パストールの振付。パストールは『ロミオとジュリエット』も振付けていて、第13回世界バレエフェスティバルでは、やはりザハーロワがメリクリエフと踊っている。ザハーロワとロブーヒンは、長い手足を絡め合いもつれ合いながら、愛の真実を探し求めていく。アレッサンドラ・フェリはケネス・マクミラン振付の『レクイエム』を踊った。マクミランが兄事していた盟友ジョン・クランコの死に捧げた曲。19〜20世紀に活躍したフランス人作曲家ガブリエル・フォーレの同名の曲に振付けている。フェリの踊る姿は清明な深い祈りを表したものだった。ABTのプリンシパル、ジリアン・マーフィーは、パリ・オペラ座バレエのエトワール、マチアス・エイマンと『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』を踊った。バランシンが振付けた鮮やかな動きが優雅にに現れた。

『Tango y Yo』撮影:瀬戸秀美

『ジゼル』撮影:瀬戸秀美

『Tango y Yo』 撮影:瀬戸秀美

『Tango y Yo』撮影:瀬戸秀美

『レクイエム』フェリ 撮影:瀬戸秀美

『レクイエム』 撮影:瀬戸秀美

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』マーフィー、エイマン 撮影:瀬戸秀美

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』撮影:瀬戸秀美

後半はマルセロ・ゴメスが振付けた『トッカーレ』から。ゴメス自身とABTのソリスト、カッサンドラ・トレナリーが踊った。ヴァイオリンとピアノで伍家駿の曲を演奏しつつ、弦が奏でるメロディーを細かく当て振りのようにおいながら同時に大きな動きも表してゆく。それが男と女のふたつの身体に響き合い不思議な繋がりを感じさせた。ユニークな作品だった。ロパートキナとエルマコフは『グルックのメロディ』を踊った。愛する妻エウリディーチェを失った夫オルフェオが冥界に妻を探しに行く、という物語の有名な歌劇『オルフェとエウリディーチェ』の「精霊の踊り」にアサフ・メッセルが振付けた作品。

『トッカーレ』トレナリー、ゴメス 撮影:瀬戸秀美

『トッカーレ』撮影:瀬戸秀美

ロパートキナが終始、薄いヴェールを持って踊ったが、それは冥界の人を表すのか、それとも絶対に顔を見てはいけないというタブーを表しているのか。恐らく両方を表現しているのだろうが、グルックの美しいメロディにのせて踊るロパートキナは、まるで身体の一部に備わっているかのように精妙に表わしていた。ジリアン・マーフィーとマチアス・エイマンは、『海賊』のメドゥーラとコンラッドの寝室のパ・ド・ドゥを踊った。意外とエイマンに海賊の衣装が良く似合った。
アレッサンドラ・フェリとエルマン・コルネホは『ロミオとジュリエット』寝室のパ・ド・ドゥ。フェリの得意中の得意の演目で一世を風靡したことはよく知られている。ジュリエットとともにフェリ自身の青春の輝きが甦った。アナニアシビリが『瀕死の白鳥』を踊った。胸に銃痕を表すルビーのブローチは着いていない。チュチュは近年流行のグレーの白鳥の羽根をまとめたもの。アンナ・パヴロワの振付とは異なり、最後は仰向けになって息絶える。現実の「死」そのものを強調してみせた。ザハーロワのロブーヒンの『海賊』こちらはメドゥーラとアリのパ・ド・ドゥ。ザハーロワの、神の手が鋭い鑿で造形したような見事な身体が圧倒的だった。
(2016年7月26日 東京文化会館)

『グルックのメロディ』ロパートキナ、エルマコフ 撮影:瀬戸秀美

『グルックのメロディ』撮影:瀬戸秀美

『海賊』撮影:瀬戸秀美

『海賊』撮影:瀬戸秀美

『ロミオとジュリエット』フェリ、コルネホ 撮影:瀬戸秀美

『ロミオとジュリエット』撮影:瀬戸秀美

『瀕死の白鳥』撮影:瀬戸秀美

『瀕死の白鳥』撮影:瀬戸秀美

撮影:瀬戸秀美

撮影:瀬戸秀美

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