白石あゆ美の優れた身体能力と宮尾俊太郎の落着いた演技が光った『白鳥の湖』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

K バレエ カンパニー

『白鳥湖』熊川哲也:演出・再振付、マリウス・プティパ、レフ・イワノフ:原振付

K バレエ カンパニーの熊川哲也の演出・再振付による『白鳥の湖』を観た。K バレエ カンパニーの『白鳥の湖』は2003年に初演された。そしてこの熊川哲也版『白鳥の湖』には、オデット/オディールを1人のバレリーナが踊りきるものと、別々のダンサーがそれぞれを踊る、という二つヴァージョンがある。私が観たのは、白石あゆ美がオデット/オディールを踊ったヴァージョン。ジークフリート王子役は宮尾俊太郎だった。

白石あゆ美は小柄ながら細やかに良く速く身体が動く。関節、特に手首や肘が柔らかく見えた。運動神経も優れているのだろう。ステップや上半身の速い動きと表情の変化のバランスも良く、一体化して全身で自然な表現を作っていた。ただパからパへの移行が少し曖昧にも見えたのだがどうなのだろうか。また、もう少し表情をはっきり作って表現してほしいとも思った。特に黒鳥は、もっとくっきりと表情を作るなどして、オデットとのコントラストを鮮やかにつけてほしいと思った。
宮尾俊太郎はさすがの演技だった。1幕や3幕の映画で言えば、クローズアップされるシーンでの表現が安定していてしっかりと見せた。観客とのコミュニケーションも出来ているように思えた。
そして、ロットバルト役の杉野慧、王子の友人ベンノを踊った益子倭、チャルダッシュをリードした福田昂平などのジェンツ組の活躍も印象を残した。特に杉野は長身と長い手足を生かし貴族的とも言える雰囲気を漂わせて舞台を盛り上げた。益子も3幕の冒頭シーンのソロヴァリエーションを踊って、王妃選びの儀式を格調あるものと感じさせた。カンパニーの中でも彼ら若手の男性ダンサーが確実に成長してきていることは、大いに頼もしい。

K バレエ カンパニー『白鳥湖』白石あゆ美、宮尾俊太郎 撮影/小川峻毅

白石あゆ美、宮尾俊太郎 撮影/小川峻毅

演出としては、第1幕では、小鳥の鳥かごやランプあるいは家庭教師の悪ふざけなどを、結婚して国を治める責を負わなけばならないジークフリート王子の憂愁を写す心象として描き、宴の終盤にはロットバルトが楽しげな声が響くパーティを、密かに覗きに来るなどのサスペンス要素も盛り込んだ。配慮が行き届いた演出である。
またラストシーンでは、しばしば見られるジークフリートがロットバルトと戦い、羽をむしり取るなどといった荒唐無稽の芝居を避け、二人とも愛に殉じて死ぬ。そして、天国でなんの愁いもなく花を摘み戯れるシーンを描き、愛の悲劇を生きた二人の恋人たちを救った。
(2015年11月3日 Bunkamura オーチャードホール)

K バレエ カンパニー『白鳥湖』白石あゆ美、宮尾俊太郎 撮影/小川峻毅

白石あゆ美、宮尾俊太郎 撮影/小川峻毅

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