『ボレロ』の鮮烈なエロティシズムと『セビリア組曲』の華麗な踊りが圧巻、スペイン国立バレエ団
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ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
スペイン国立舞踊団
Aプログラム『ファルーカ』『ビバ・ナバーラ』『ボレロ』『セビリア組曲』アントニオ・ナハーロ:芸術監督
スペイン国立バレエ団がフィギュア・スケートの振付も手掛けるアントニオ・ナハーロ芸術監督就任後2回目で、3年振りとなる来日公演を行った。
ファン・キンテーロ振付の『ファルーカ』で開幕した。3人の男性舞踊手がグレーの腰高のパンタロンと白いシャツにベストというシックな装いで踊る。サパティアードを駆使した踊りだ。3人の呼吸がピタリと合って素晴らしいアンサンブルを見せた。
続いてビクトリア・エウへニア振付の『ビバ・ナバーラ』。こちらは金の模様と縁取りのある華やかな民族衣装で踊る女性舞踊手のソロ。カスタネットを巧みに操って、良く動くステップと組み合わせて、軽やかで愛らしい雰囲気を歌い上げるような踊りだった。
スペイン国立バレエ団の『ボレロ』は、ホセ・グラネーロの振付が親しまれてきたが、今回はラファエル・アギラール版(1987年初演)だった。赤と黒の衣装の女性舞踊手がコール・ドに控え、上半身裸でパンツに腰のあたりから血を流したような鮮烈な衣装の男性舞踊手が中心を踊る。ベジャール版の影響も感じられなくはないが、舞台全体が血に塗り込められたような鮮烈なイメージで、それがラベルの音楽と不思議な同調を感じさせた。受難者の強烈なエロティシズムが発散された舞台だ。
「ボレロ」photo/Yuki Omori
「ボレロ」photo/Yuki Omori
『セビリア組曲』は、様々なスペイン舞踊をアントニオ・ナハーロ監督が9曲の小品にまとめて構成したもの。「フェリア」「カジェ・デル・インフェルノ」「アルファルフア」「エスペランサ」「マエストランサ」「トリアーナの港」「バイラオール」「パセオ・デ・エンスエニョ」「フビロ」の9曲である。
「セビリア組曲」photo/Yuki Omori
「フェリア」は男女9組のペアが金色の衣装を着けてラインを成して踊る。全員がカスタネットをかき鳴らす。そこに女性歌手が登場し、ペアが崩れて群舞となる。背景の大きな円の中にはセビリアのものと思われる建物のシルエット。希望に溢れる春祭りのイメージが踊られる。「ガジェ・デル・インフイエルノ(地獄の道)」は女性舞踊手のソロ。地獄の道とは遊園地へ向かう道のことだとか。バレエシューズにカスタネットを使った華やかなステップが際立った。「アルファルフア」は、町中を聖母像が練り歩くバレエなどでもよく見かける、セビリアの聖週間を舞踊で表す。聖母像を担ぐ男性と黒いベールを着けた女性のグループが踊る。信仰の尊さを歌い上げる。「エスペランサ」は希望を意味し、白い衣装を纏った一人の女性を男性舞踊手の群舞が高く掲げて踊る。「マエストランサ」は闘牛士と牛に扮した女性舞踊手のパ・ド・ドゥ。煌びやかな衣装に身を包んだ闘牛士が、真紅と黄色のケープを操り、パワフルな牛と闘う。スペインを表す闘牛を様式化し、象徴的に表した舞踊だ。「トリアーナの港」は裳裾の長い白いドレスを纏った女性舞踊手6名が白い扇子を閃かせて踊る。ジプシーが多く住んでいたという地区へのノスタルジーを華やかに踊った。白いラインのうねりがジプシーたちの息づかいを感じさせた。『バイラオール』はフラメンコの男性舞踊手のこと。ウエルバ県発祥の独特の粋な帽子を被った男性舞踊手7名が、白いシャツに黒いベストとパンタロンで踊る。サパティアードと手拍子で闊達な気分を盛り上げた。『パセオ・デ・エンスエニョ(夢の散歩道)』は、タイトル通り幻想的な雰囲気のパ・ド・ドゥだった。ラストは『フビロ(歓喜)』は、まさに終幕にふさわしい華麗な群舞が繰り広げられ、大喝采のうちに幕を閉じた。
(2015年10月31日 東京文化会館)
「セビリア組曲」photo/Yuki Omori
「セビリア組曲」photo/Yuki Omori