遠藤康行、中村恩惠、西島数博、笹原進一など今日の舞台で活躍する振付家の4作品が上演された
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ワールドレポート/東京
関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
「REJOICE」Melos Dance Experience
『Les Mots de Silence』遠藤康行:振付、『Black Tulip』中村恩惠:振付・出演、『流れる風』西島数博:演出・振付・主演、『Rejoice』(改訂版)笹原進一:振付
遠藤康行による『Les Mots de Silence』(沈黙の言葉)は、ストラヴィンスキーの『春の祭典』に振付けている。遠藤は以前から女性ダンサーだけで『春の祭典』を振付けてみたいと思っていたそうだが、日本でもコンサートを行っているトルコ出身の演奏家・作曲家ファジル・サイ版のピアノによる『春の祭典』と出会った。これはファジル・サイがパートごとにピアノ演奏したものをオーケストラの構成に録音している、二次的作品と言ってもいいような独特の『春の祭典』で、振付の意欲がいっそう高まったという。
実際、音楽と動きの関係は、ネオクラシック的というかモダンダンスのようにもみえるところがあったが、とても良い一体感があった。群舞の構成もなかなか美しく洗練されていた。ダンサーたちはそれぞれカラフルな(女性的な)衣裳を纏い、自由自在なフォーメーションを作って流れるような展開を見せる。野性的なエネルギーが爆発するようなシーンはなかったが、躍動的な動きはあった。ラストシーンでは、ダンサーは全員トップスを脱いで肌色のシャツを纏った同じ姿となる。ストラヴィンスキーの音楽のもうひとつ別の一面を垣間見せたダンスだった。
「Les Mots de Silence」撮影:スタッフ・テス 根本浩太郎
「Les Mots de Silence」 (中央) 梶田留以 撮影:スタッフ・テス 根本浩太郎
中村恩恵振付の『Black Tulip』は、イングランドのリュート奏者で作曲家のジョン・ダウランド『ラクリメ』(涙のパヴァーヌとも言われる)による自作自演のソロ。「私を忘れてください」という黒いチューリップの花言葉に潜在する不条理な現実と向き合ったダンスだ。動きのひとつひとつに深い感情の塊が織り込まれているかのような重みがあり、心を動かされた。最後、数秒間無音となり、舞台空間に漲った緊迫感を残して幕が下りたのが印象深かかった。「人口の極みの花、黒いチューリップ」を謳った象徴詩のような作品だった。
「Black Tulip」中村恩恵 撮影:スタッフ・テス 根本浩太郎
『流れる風』は西島数博がヴィヴァルディの『四季』より「夏」に振付け、自身で踊った。ヴィヴァルディの『四季』の「夏」は、嵐を思わせるような激しさを感じさせる。この曲の中に西島は「情熱の中に流れる風」を見たのだろうか。様々に変化する照明を駆使して、情熱を込めた感情を激しい動きで表し、そこに現れる命の姿を求めて実感しようとするように踊った。久しぶりに見た西島の踊りに新たなパワーを感じた舞台だった。
最後に踊られた『Rejoice』は、近年、そのバレエベースのメソッドが注目を集めているという笹原進一がボブ・チルコット、ウィリアム・バードの声楽曲に振付けたもの。笹原は小牧バレエ出身だが、指導者に転じて大変な人気。『Rejois』は「透明感あふれる天上的ダンス」を試みたものという。
白い清潔感のある衣裳で、ギリシャの円柱を象徴的に使った装置の前で、様々に光りを変化させながら12のパートが踊られた。八幡顕光(ロサンゼルス・バレエ)檜山和久(谷桃子バレエ)沖田貴士(東京シティ・バレエ)がゲスト出演している。
「流れる風」西島数博
撮影:スタッフ・テス 根本浩太郎
バレエのポーズの原点はギリシャの美の観念とも言われるが、そうしたことを想起させるような舞台だった。
Melos Dance Experienceとは、ロシア・バレエ・インスティチュートで学び、東京バレエ団や勅使川原三郎とも活動した、土井由希子がコンテンポラリー・ダンスやネオクラシックのダンスを中心にした現代的バレエ公演をプロデュースするもの。今回の「REJOICE」が第1回の定期公演である。
(2018年4月27日 キュリアン大ホール)
「REJOICE」土井由希子 八幡顕光 撮影:スタッフ・テス 本橋亜弓
「REJOICE」八幡顕光 撮影:スタッフ・テス 根本浩太郎
「REJOICE」撮影:スタッフ・テス 根本浩太郎