平田桃子の精緻なステップと入念なマイム、エイマンのしなやかなジャンプ、見応えあった『リーズの結婚』

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki

Birmingham Royal Ballet 英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団

『La Fille mal gardee』Choreography by Frederick Ashton
『リーズの結婚』フレデリック・アシュトン:振付

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BYB)が3年振りに来日した。演目は、BYBの看板演目ともいえるピーター・ライト振付の『眠れる森の美女』とフレデリック・アシュトン振付の『リーズの結婚』。今回は、英国ロイヤル・バレエ団からイングリッシュ・ナショナル・バレエに移籍した名花アリーナ・コジョカルを『眠れる森の美女』のオーロラ姫に、パリ・オペラ座バレエ団の人気のエトワール、マチアス・エイマンを『リーズの結婚』の農夫コーラスに迎えるというのが話題だった。2作品のうち、エイマンが日本でコーラスを踊るのは初めてという『リーズの結婚』を観た。アシュトンの最高傑作ともいわれるこの作品は、のどかな田園風景をバックに、裕福な農家の未亡人シモーヌの一人娘のリーズが、金持ちのぶどう園主の息子に嫁がせようとする母の思惑を退け、相思相愛のコーラスとの結婚を勝ち取るまでを、多彩な踊りを盛り込み、台詞のようにマイムを散りばめてコミカルに描いたもの。エイマンと組んでタイトルロールを踊ったのは、テクニックと演技には定評があり、幅広い役を柔軟にこなすプリンシパルの平田桃子である。なお、1995年から長きにわたり芸術監督を務めてきたデヴィッド・ビントリーは、来年退任すると発表しているので、この組み合わせでの日本公演は4度目の今回が最後になる。

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Photo:Kiyonori Hasegawa

のどかな田園のぬくもりを伝えるオーケストラ(ポール・マーフィー指揮東京シティ・フィル)と、農村の風景を描いた古風な幕絵が物語の世界へといざなった。最初の見せ場は、着ぐるみをきた雄鶏と雌鶏たちのダンスで、夜明けを告げるユーモラスな踊りが笑いを誘った。続いて、シモーヌの農場での日常が描かれるが、娘に仕事を言いつけるシモーヌと渋々従うリーズの軽妙な掛け合いと、リーズとコーラスがシモーヌの目を盗んで踊るデュエットが好対照を成した。母に対してはしおらしく振る舞い、その一方でコーラスへの恋を燃え上がらせるリーズを、平田は元気良く溌剌と演じてみせた。エイマンのコーラスは、活気にみちた瑞々しい若者といった風で、リーズに夢中なことを全身で伝える。ただ、農夫の役なのに、どこかエレガントな雰囲気を漂わせてもいた。二人が長いリボンを愛を紡ぐように操りながら踊るデュエットでは、しっとりとした情緒が匂い立った。舞台を引き締めていたのは、シモーヌ役のベテラン、マイケル・オヘアの達者な演技。可愛くてたまらない娘を、少々頭が弱くても、金持ちのぶどう園主の息子アラン(ジェイムズ・バートン)に嫁がせようとするしたたかな母親を、適度に大仰な動作で演じてみせた。

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Photo:Kiyonori Hasegawa

第2幕の麦畑では、アランとリーズのデュオにコーラスが巧妙に割り込み、リーズとコーラスが愛を確かめるという展開になるのだが、3者の息の合ったスリリングな踊りが楽しめた。その後のリーズとコーラスのパ・ド・ドゥでは、平田の精緻なステップやエイマンのしなやかなジャンプが冴え、典雅なテクニックで魅了した。さらに場を盛り上げたのは、オヘアによる木靴のダンス。弾むような音楽にのせて大きな身体を揺らし、軽快に木靴でリズムを叩き出すオヘアの洒脱なダンスは見事だった。第3幕の農家の家の中では、平田の入念なマイムとダンスがひときわ精彩を放った。びしょ濡れで戻った母娘が暖炉の前にスカーフを吊すなどのやりとりは台詞なしの芝居そのもの。リーズがシモーヌの糸紡ぎを手伝ったり、シモーヌが打つタンバリンに合わせて踊ったりするシーンでは、平田はポアントも美しく正確にステップを踏んだ。シモーヌが居眠りした隙に、ドアの上部から身を乗りだしたコーラスに抱き上げられてキスを交わしたことを悟られまいと、リーズは目覚めたシモーヌの前で弾けたように踊りまくるが、平田の慌て振りは真に迫っていて、何とも可笑しかった。一人残されたリーズがコーラスとの結婚や育児を想像するマイムもこなれており、コーラスが物陰で見ていたと知って照れる様はいじらしかった。リーズをコーラスから引き離そうとするシモーヌが、コーラスが逃げ込んだ寝室に娘を閉じ込めたのが間違いの元で、一騒動を経て恋人たちが結婚の許しを得るまでの筋運びは、アラン親子には酷だが、おもしろ可笑しく織り成されていた。アランが愛用の赤い傘を見つけて喜ぶラストに、恋人たちだけでなくアランにも向けられたアシュトンの温かい眼差しが感じられた。『リーズの結婚』はBYBのお家芸といわれる作品。平田とエイマンの卓越した演技と、随所でドラマを牽引したオヘアの円熟した演技も忘れ難いが、見応えある群舞を含めて全体のまとまりも良く、練り上げられた舞台になっていた。
(2018年5月25日 東京文化会館)

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Photo:Kiyonori Hasegawa

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