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伝説のダンサーヌレエフの芸術とスピリットをマニュエル・ルグリが継承発展させたガラ・コンサート

ワールドレポート/東京

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi

WIENER STAATSBALLET ウィーン国立バレエ団

NUREYEV GALA『ヌレエフ・ガラ』

その精悍な容貌と動物的とも言える瞬発力から「黒豹」とも言われた20世紀の伝説的ダンサー、ルドルフ・ヌレエフ。彼は旧ソ連から亡命した後、オーストリア国籍を取得し、1964年、ウィーン国立バレエ団(当時はウィーン歌劇場バレエ団)に『白鳥の湖』を振付け、『ドン・キホーテ』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』『ライモンダ』などを上演している。そしてパリ・オペラ座バレエ団の芸術監督時代に育てた「ヌレエフ世代」と呼ばれたダンサーたちの中で、その騎手となったのは紛れもなくマニュエル・ルグリだった。ルグリはヌレエフによりパリ・オペラ座のエトワールに昇進を果たしている。
そのマニュエル・ルグリがウィーン国立バレエ団の芸術監督になって始めた「特別なガラ」が「ヌレエフ・ガラ」であり、毎シーズンのラストダンスとして上演されてきた。今回の来日公演で日本でも踊られることになった。

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「ソロ」©Hidemi Seto

内訳は、バランシン振付の『ワルツ・ファンタジー』に始まる12演目と、ヌレエフの振付をルグリが構成した「ヌレエフ・セレブレーション」という大掛かりなガラ公演である。

印象に残った演目を上演順に上げていくと、ハンス・ファン・マーネンが振付けた『ソロ』を、木本全優、リヒャルト・サボー、ジェロー・ウィリックの男性ダンサー3人が踊った。要するに3人がバッハのヴァイオリン曲と一体となって、ヴァリエーションを連鎖しつつ踊っていくわけだが、そのシンプルな展開がリズムに乗って、時にユーモアも交え、観客に心地よいアンサンブルを見せ客席に涼風をもたらした。
ローラン・プティ振付の『ランデヴー』よりは、昨年夏の「ルグリ・ガラ」でも元オペラ座のエトワール、イザベラ・ゲランとルグリが踊って話題を集めた。ここではルグリの相手役はイリーナ・ツィンバル。ミンスクのバレエ学校出身でラトビアやハンガリーの国立バレエ団で踊った黒髪のダンサーだった。やはり、それはオペラ座でともにキャリアを重ねたゲランほど絶妙とはいかなかったが、パリの夜を写したブラッサイの写真を背景にコスマの曲が流れ、底知れない不条理の印象が残された。
『マーマレーション』よりは、リードするダンサーと群舞の関係が独特の魅力を見せた。台湾出身でNYCBやNDTで踊り、現在はオハイオ州のバレエ・メットの芸術家を務めるエドァード・リアンがヒューストン・バレエに振付けた。音楽はエツィオ・ボッソの「ヴァイオリン協奏曲」。表題は椋鳥の群れという意味で、鳥の大群が大空に描く変幻する曲線の形態に触発されたダンスだそうだ。アンサンブルが個々のダンサーの心象を、ひとつの生き物のように見せていた。

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「ランデヴー」 ©Wiener Staatsballett/Ashley Taylo

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「マーマレーション」 ©Wiener Staatsballett/Ashley Taylo

休憩の後、ダニエル・プロイエット振付の『シーニュ 白鳥』。フォーキンの『瀕死の白鳥』の動きを解析するような振付だった。背景に白鳥を踊るダンサーの大きな映像を映し、ポーランドの音楽家でシディ・ラルビ・シェルカウイの『プルートゥ PLUTO』などの音響にも携わったオルガ・ヴォイチェホヴスカの曲「シーニュ」を流す。舞台に鼓動を響かせながら、フォーキンの振りを野生の白鳥の動きと照応させた。チュチュも実際の白鳥の形象を加えて象徴化している。銃弾を撃ち込まれたことを表すルビーも輝いていた。ラストシーンでは少年が登場して、イノセントな目で「死」を見つめる、という短い時間ながら、多くの要素を輻輳させて実に印象深い作品を見せた。プロイエットはブエノスアイレスのテアトロ・コロンでクラシック・バレエを学び、イギリスのラッセル・マリファントのダンサーとしても踊り、シェルカウイの『Te Zuka』にも出演している。伝統舞踊の伝承を研究しており、静岡の「ふじのくに⇄せかい演劇祭 2018」にも『シミュレイクラム/私の幻影』という作品に小島章司とともに参加している。

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「シーニュ 白鳥」©Hidemi Seto

続いてケネス・マクミラン振付『コンチェルト』より。マクミランが振付を始めたのが1953年で、65年には代表作『ロミオとジュリエット』を振付け『コンチェルト』はその翌年の作品。同じ年にはマーラーの『大地の歌』を振付けているから、初期の充実した時期の作品と言えるだろう。『コンチェルト』はショスタコーヴィチのピアノ協奏曲全3楽章に振付けられているが、ここでは第2楽章アンダンテの静かな曲が踊られた。舞台の左右から男性ダンサーと女性ダンサーが同時に登場し、中央で出会ってパ・ド・ドゥが始まる。絞り込んだ動きによる美しいフォルムが描かれる。やがて3組のペアが上手から現れて踊りながら下手へと消える。第2楽章だけカットして上演されたことにより、また異なった印象を与えている。

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「コンチェルト」 ©Wiener Staatsballett/Ashley Taylo

『ストラヴィンスキー・ムーヴメンツ』よりは、ウィーン国立バレエ団のアンサンブルのダンサー、アントラーシュ・ルカーチの振付作品。すでに多くの作品を自身のカンパニーに振付ているそうだが、『ストラヴィンスキー・ムーヴメンツ』は2014年に発表している。音楽はストラヴィンスキーの「プルチネッラ」「5本の指で」「ミューズを率いるアポロ」などで構成している。まず目につく衣装は白と黒で構成され、コメデア・デラルテ風のプリーツで作ったリングを首や腰に着けて踊った。アリーチェ・フィレンツェと木本全優ほか2組のペアが中心となって踊った。
ジョン・ノイマイヤー振付の『シルヴィア』より。イリーナ・ツィンバルのシルヴィアとオリジナル・キャストだったルグリのアミンタのパ・ド・ドゥ。音楽はレオ・ドリーヴでピチカートのパートも奏でられる。ノイマイヤーによる愛の心理模様が巧みに表された。

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「ストラヴィンスキー・ムーヴメンツ」©Hidemi Seto

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「シルヴィア」 ©Wiener Staatsballett/Ashley Taylo

そして最後は「ヌレエフ・セレブレーション」。『くるみ割り人形』『ライモンダ』『白鳥の湖』のプティパの振付をヌレエフが改定したヴァージョンの名場面を、ルグリが抜粋し構成している。通してみるとやはり古典バレエにも時代の反映があると思われる。演出と振付にその時々の流行があり、こうしていくつかの舞台をまとめてみると余計にそのように感じられるのかもしれない。

ウィーン国立バレエ団の来日公演を見て、やはり、ウィーンの貴族的文化の伝統が反映されたカンパニーらしく品の良い舞台だった。ダンサーもテクニックに優れ、コンテンポラリー・ダンスを美しく見せた。女性ダンサーは美人揃いだったからだろうか。パリ・オペラ座バレエ団を少し小型にしたカンパニーといった印象だった。
(2018年5月9日 Bunkamura オーチャードホール)

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「ヌレエフ・セレブレーション」©Hidemi Seto

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「ヌレエフ・セレブレーション」©Hidemi Seto

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「ヌレエフ・セレブレーション」©Hidemi Seto

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