ルグリが目指す舞台をダンサーたちが理解し、華やかで統一感のある『海賊』全幕、ウィーン国立バレエ
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ワールドレポート/東京
関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
WIENER STAATSBALLET ウィーン国立バレエ団
"LE CORSAIRE" Choreography Manuel Legris after Marius Petipa, et al.
『海賊』マニュエル・ルグリ:振付(マリウス・プティパに基づく)
2012年に続いてマニュエル・ルグリ率いるウィーン国立バレエ団が来日公演を行った。そして芸術監督のマニュエル・ルグリが初めて振付けた全幕バレエ『海賊』を日本初演し、華やかな「ヌレエフ・ガラ」を上演した。
マニュエル・ルグリ振付の『海賊』全幕は、それぞれの役の男性ダンサーの勇壮なヴァリエーションと力づよい群舞が踊られ、女性ダンサーの踊りには、華麗な仕掛けを作って華やかな雰囲気を醸し出した。奇を衒わないオーソドックスな作り方で、演出的な工夫も凝らされていた。既存のヴァージョンに見られる海賊の首領コンラッドに忠誠を尽くすアリは登場しない。コンラッドと彼を裏切る部下ビルバンド、奴隷商人に徹するランディゲム、王として生きるザイード・パシャ。そしてコンラッドと気高い愛に生きるメドーラ、パシャの愛に応えるグルナーラ、海賊ビルバンドに尽くし愛し合うズルメア、と登場人物の関係が整理され、波瀾の物語の中で3つの愛が語らる。また、時折、愛の花に舞う蝶のようにオダリスクを登場させて、物語の時代背景に彩りを添えた。花のワルツの振付も美しい洗練されたフォーメーションをみせ、愛し合うことの美しさを際立たせている。
アリーナ・フィレンツェ、木本全優 撮影/小川峻毅
木本全優 撮影/小川峻毅
キム・キミン 撮影/瀬戸秀美
第一幕は、メドーラとグルナーラが奴隷商人に囚われ、競売に掛けられるシーンだが、ここでビルバンドはズルメアと出会う。パシャは奴隷として売られたグルナーラの美しさに魅了されて購入し、コンラッドはメドーラを愛とともに奪いとる。
第二幕はストーリーの流れが速い。コンラッドとメドーラのバラード調のメロディによるロマンティックなバ・ド・ドゥで始まり、女性たちの群舞、男性の群舞、ビルバンドのピストルの踊り。そして女性の奴隷たちの解放。物語のハイライトとなるメドーラとコンラッドの愛のパ・ド・ドゥ。奴隷の解放に不満のビルバンドたちとランディゲムの悪だくみ、星空となってコンラッドへの襲撃、と続き、一気にドラマが進行する。
第三幕はザイード・パシャのハーレムでグルナーラとメドーラが再会。パシャの幻想では花のワルツが踊られる。パシャの描き方は、単純な勧善懲悪で人物を決めつけず、グルナーラを愛するバシャの心の内を描こうとしていた。コンラッドはメドーラを奪い返し、ビルバンドは裏切りが発覚し命を落とす。グルナーラはパジャのもとに残るが、コンラッドとメドーラたち海賊は、意気揚々と出航する・・・。
音楽の構成にあたっては、アドルフ・アダンの『海の海賊』という曲から、オダリスクのシーンなどに使用するなどして整えた、という。全体にルグリの目指すところがダンサーによく伝わっており、好感の持てる舞台だった。
キム・キミン、マリア・ヤコヴィレワ 撮影/瀬戸秀美
キム・キミン、マリア・ヤコヴィレワ 撮影/瀬戸秀美
ダンサーでは、5月12日のマチネでコンラッドを踊ったデニス・チェリェヴィチコがエネルギッシュにパワーを炸裂させながらも軸のぶれない見事な踊りで喝采を受けた。同じ12日のソワレでコンラッドを踊ったゲストでマリインスキー・バレエのプリンシパル、キミン・キムはフレッシュな若若しい踊り。キムの踊りはエネルギーに満ち生命力に溢れている。特別に高く跳ぶわけではないが、全身から迸るものがあった。メドーラのニーナ・ポラコワ(マチネ)は落ち着いた演舞で物語性を確かなものとした。グルナーラのナターシャ・マイヤー(マチネ)の美しさには思わず見とれ、心がハーレムに飛んでしまい、時の過ぎるのを忘れていた。
木本全優のビルバンド(ソワレ)はきっちりと表現され、堂々たるもの。全身で表現していることが伝わってきた。マチネでオダリスクのリードを踊った芝本梨花子は華やかに舞台を飾り、よく稽古に励んでいることを証明する清新な踊りだった。
ルグリ版『海賊』のラストもまた特徴的だった。メドーラを無事奪い返し、ビルバンドの裏切りに打ち勝ったコンラッドの一行だったが、順風満帆とは行かず、猛烈な嵐に遭遇し、敢えなく沈没。しかし、コンラッドとメドーラはなんとか浜辺にたどり着き、愛の抱擁を交わし、幕が降りる。通常版のオープニングをエンディングとしたなかなかエスプリの効いた終幕であった。
(2018年5月12日マチネ、ソワレ Bunkamura オーチャードホール)
キム・キミン 撮影/瀬戸秀美
芝本梨花子 撮影/小川峻毅
マリア・ヤコヴレワ ©Wiener Staatsballett/Ashley Taylor