エゴン・シーレの「死と乙女」に触発された、和太鼓とピアノによる鮮烈で刺激的な舞台

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

NBAバレエ団

『和太鼓』林英哲:演出・作曲、宮内浩之:振付、『ケルツ』久保綋一:演出、ライラ・ヨーク:振付、『死と乙女』新垣隆:作曲、舩木城:振付

久保綋一が芸術監督に就任して以来、ジャンル横断的に意欲的な舞踊公演活動を進めているNBAバレエ団が、チャレンジングとも言えるトリプルビルを上演した。和太鼓奏者、林英哲の公演を観て「胸が高鳴った」久保綋一が、「日本のバレエを創りたい」と意を決して企画した舞台である。

第1作目は『和太鼓』。舞台中央奥に林英哲の太鼓を置き、大小様々な太鼓も操る。手前に英哲風雲の会の奏者が並んで太鼓を響かせる。『三つの舞』という祭りの音を構成したもの、『海の豊穣』という広島と愛媛を結ぶ「しまなみ海道」をモティーフにした曲などが演奏された。和太鼓独特の響きの空間を創出し、その舞台に、宮内浩之の振付による少女の踊りを見せた。豪快な響きと優しい動きのコントラストが鮮やかだった。
次に上演されたのは、2013年にも上演されたことのあるポール・テイラーのカンパニーで踊ったライラ・ヨーク振付の『ケルツ』。タイトル通り、ケルト民族のダンスから想を得たもの。上半身裸に赤いスカートのような衣装を着けた男性ダンサーたちの戦いの踊り、戦争の悲哀を表わすブラウンのカップル、躍動感溢れるレッドカップル、見事なステップを踏むグリーンマン、そしてコール・ド・バレエ、さらに英哲のグループの太鼓の演奏も加わり若々しく活力あるダンスだった。

3作目は新作の『死と乙女』。タイトルを聞いた瞬間は、フランツ・シューベルトの『少女と死』を舞踊化するのかと思った。というのも以前、マギー・マランが振付けたシューベルトの『少女と死』を観たことがあったから。

「和太鼓」林英哲、阪本絵利奈 撮影/瀬戸秀美

「和太鼓」林英哲、阪本絵利奈
撮影/瀬戸秀美(すべて)

しかし、エゴン・シーレの著名な絵をモティーフとした作品だった。シーレは周知のように、20世紀初めに活躍したオーストリアの画家。グスタフ・クリムトともにウィーン分離派と呼ばれた。「死と乙女」は彼の、結婚を前に恋人との別れを描いたシーレ独特の耽美的な絵画である。新垣隆が作曲し、林英哲の太鼓とともにピアノ演奏した音楽を使用し、船木城が振付けた。
舞台奥に黒い幕で設えた場所を設け、上手では新垣がピアノを弾き、下手では英哲が太鼓を打つ。ピアノと太鼓という対照的な音が創る空間に、男性ダンサーは黒くアイシャドーを塗り、女性ダンサーのトップには妖しい模様が着けられている白い衣装。速い場面転換を繰り返しながら、ヴィジュアル・イメージがめまぐるしく変転する。白一色の舞台の中に、瞬間的に深紅のスカートを着けた少女が鮮烈に浮かび上がる。
独特の動きも感じさせるとは言え、2次元の絵画から発想して、音と動き、時間と空間を創造した鮮烈かつ刺激的な舞台だった。
(2016年5月29日 北ぴあ さくらホール)

「ケルツ」撮影/瀬戸秀美

「ケルツ」

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「ケルツ」

「ケルツ」撮影/瀬戸秀美

「ケルツ」

「死と乙女」

「死と乙女」

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