小野、福岡のたおやかさと力感漲る踊り、木村、中家の伸びやかな踊りが際立った『ドン・キホーテ』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団

『ドン・キホーテ』マリスス・プティパ、アレクサンドル・ゴルスキー:振付、アレクセイ・ファジェーチェフ:改訂振付

新国立劇場バレエ団の『ドン・キホーテ』が、3組のキャスト(米沢唯/井澤駿、小野絢子/福岡雄大、木村優里/中家正博)で上演された。新国立劇場バレエの『ドン・キホーテ』は、プティパ、ゴルスキーの振付に、ボリショイ・バレエ団でプリンシパルとして踊ったアレクセイ・ファジェーチェフが改訂を加えたヴァージョンを1999年に初演し、レパートリーとしている。
演出・振付は、2幕1場の居酒屋のシーンは、比較的スローな踊りで構成し、スペイン舞踊の特色を際立たせ、カスタネットが効果的に使われて印象を深めている。そしてこのシーンでは、呼び物のひとつである「バジルの狂言自殺」が成功。2幕2場の夜のジプシーたちのシーンと3場の森のシーンでは、キトリもバジルは出番はなし。この部分をドン・キホーテだけの逸話としているところが特徴だろう。このヴァージョンは、ジプシーの野営地のシーンでジプシーの踊りがないので、森の夢のシーンとのコントラストがもう一つ際立たない。また、几帳面に段取りをたどるようなところがみられ、物語の流れが素晴らしい、とまでは見られなかった。

私が観たキャストは小野絢子のキトリ、福岡雄大のバジル。森のシーンでは、小野絢子のドゥルシネア姫、木村優里の森の女王、広瀬碧のキューピッドがコール・ドとも一体となって、バランス良く踊り雰囲気を高めた。
しかし、やはり心に残ったのは、小野絢子と福岡雄大のプリンシパル・コンビの充実ぶりだろう。小野は持ち前のたおやかさに加えて、自身から全体のリズムを発信するかのようにテンポ良く踊り、舞台を引き締めた。また、福岡の充実ぶりも見事。もともと力強いダンサーだったが、あふれるようなエネルギーを巧みにコントロールして鮮やかな力感として舞台に漲らせることに成功している。終盤のグラン・パ・ド・ドゥは圧巻だった。今、まさに頂点を迎えようとするダンサー同士の美しさが、観客の喝采を呼んでいた。

新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』小野絢子、福岡雄大 撮影/瀬戸秀美

小野絢子、福岡雄大 撮影/瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』小野絢子、福岡雄大 撮影/瀬戸秀美

小野絢子、福岡雄大 撮影/瀬戸秀美

そして木村優里のキトリ、中家正博のバジルも観ることができた。木村のキトリは、出色の踊りだったと思う。あまり細部には拘泥せず、身体の覚え込んだままを素直に伸び伸びと踊って、キトリの元気の良さと明け透けな魅力、そして若さの素晴らしさを見事に舞台に現した。近年観たキトリの中でも最も気持ちの良い踊りだった。この天賦の才能がキトリ役だからだ、と言われないように伸びやかに成長してほしい。中家正博のバジルも良かった。木村とのパートナーシップもスピードが合っていて良かったと思う。だだ少し暗い印象を与えてしまうところがあるので、もっともっと笑顔を積極的に現して欲しい、と願う。カーテンコールでもあまり笑顔がみられなかったし。
カスタネットの踊りを踊った堀口純が、スペイン女性らしい哀調を帯びた雰囲気のある表現をみせて踊り感心した。
(2016年5月4日、7日 新国立劇場 オペラパレス)

新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』木村優里、中家正博 撮影/瀬戸秀美

木村優里、中家正博 撮影/瀬戸秀美

新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』木村優里、中家正博 撮影/瀬戸秀美

木村優里、中家正博 撮影/瀬戸秀美

ページの先頭へ戻る