篠宮佑一がバジル、佐々部佳代がキトリを踊り、キャシディがドン・キホーテを演じた楽しい舞台

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

Kバレエ カンパニー『ドン・キホーテ』

熊川哲也:演出、再振付、美術、衣装

Kバレエ カンパニーの『ドン・キホーテ』を観た。
ダンサーなら誰でもといってもいいくらい、闊達な踊りと明るいスペインの情感が溢れる『ドン・キホーテ』という演目には特別の愛着があるはず。熊川哲也もまた良く知られているように、『ドン・キホーテ』を踊ってローザンヌ国際バレエコンクールでゴールドメダルを受賞し、英国ロイヤル・バレエ団ではバジルを主演した後にプリンシパルに昇格している。そして2004年には自身が主宰するKバレエ カンパニーで演出、再振付、舞台美術、衣装を手掛けて新しい舞台を製作した。 今回の3年半振りの再演では、新たにカンパニーに加わり、ファースト・アーティストとして活躍する篠原祐一のバジル、ファースト・ソリストの佐々部佳代のキトリ、というキャストでを観ることができた。
篠原は移籍して2年。Kバレエ カンパニーで初めて主役に起用されて堂々と踊った。もともとテクニックは安定感があったが、登場シーンから張り切って踊る気持ちも全開にして表わし、観客にも期待を抱かせた。ただ、前半では物語バレエのダンサーとしては少し装飾的な動きが多いようにも感じたが、第2幕のジプシーたちと共に踊るあたりからは、物語世界と一体となって踊った。そしてラストのグラン・パ・ド・ドゥまで、しっかり踊り通した。移籍したバレエ団の主役デビューで、大きな喝采を得たのだから、特別に嬉しかったのではないだろうか。敢えて欲を言えば、主役としてさらに際立ったものが欲しいという気がした。テクニックの卓越した冴えでも、威風堂々たる演技でもいいのだか、他を圧倒するようなものである。Kバレエ カンパニーで踊ると、喝采も一段と大きいので、これに満足することなくがんばってほしいと願う。

キトリ:佐々部佳代/バジル:篠宮佑一 Photo (C) Jin Kimoto

キトリ:佐々部佳代/バジル:篠宮佑一 Photo (C) Jin Kimoto

終始落ち着いて演じていたキャシディのドン・キホーテが素晴らしかった。舞台全体への配慮が行き届いていて作品の格調を高める演技を見せ、物語の展開ににも一段とゆとりを与えていた。
キトリの佐々部佳代は、良く整えられた無駄のない踊りで、キャシディとともに踊るシーンでは、優しさが滲み出るような存在感を現していてとても良かった。このような表現の中に、天賦の資質が潜んでいるのではないだろうか。
第1幕の終わりに駆け落ちしたキトリとバジルは、夜になってジプシーの寝静まった野営地に迷い込む。そして、静けさの中から聴こえてくる虫の音を前奏曲として第2幕が始まる。やがて二人は、後から姿を見せたドン・キホーテとサンチョ・パンサとともに、ジプシーたちとも打ち解けるのだが、執念深くガマーシュとロレンツォも追い掛けてくる。そのピンチはドン・キホーテの槍の威力で切り抜ける。しかし今度は、夜陰に響く風の音に怯えたドン・キホーテの狂気が目覚める。この風の音は、前奏曲ともなった虫の音と呼応していて、二人がガマーシュやロレンツォに追いまわされた第1幕の街の広場の喧噪と鮮やかなコントラストをみせ、見事な効果を上げていた。ミンクスの描写力の優れた音楽とともに、効果音が踊りの楽しさをいっそう豊かなものとし、舞台に豊穣をもたらしていた。
(2016年3月11日 オーチャードホール)

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