小野絢子、細田千晶が軽快なステップで踊った魅力的なシルフィード、新国立劇場バレエ団
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ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
新国立劇場バレエ団
『ラ・シルフィード』オーギュスト・ブルノンヴィル:振付
新国立劇場バレエの『ラ・シルフィード』とウェイン・イーグリング振付の『Men Y Men』を観た。
『ラ・シルフィード』は、ブルノンヴィル版で新国立劇場バレエ団は2000年6月にソレラ・エングルンドと大原永子がステージングしたものを上演している。エングルンドはスコティッシュ・バレエで『ラ・シルフィード』を演出したそうだから、おそらく今回もそのヴァージョンであろう。(新国立劇場バレエ団の初演およびその後の再演もエングルンドはマッジ役を演じている)その作品が誰の手によってレパートリーに導入されたか、は劇場にとって重要な記録である。
音楽は、ブルノンヴィルがデンマーク・ロイヤル・バレエで上演した時に作曲したヘルマン・ルーヴェンシュキョル。シルフィード役は細田千晶で爽やかな軽さを纏って踊った。ジェームスは井澤駿、エフィは堀口純、グァーンは木下嘉人というキャストだった。
バレエとしてはたいへんわかりやすい物語というか展開である。少しわかりやす過ぎるのではないか、と思われるくらいで、曖昧で観客にあれこれ空想させる局面は少ない。特に、結婚式から逃げ出したジェームスの代わりにすぐにグァーンをエフィが受け入れるところは、実も蓋もないシーン。できればそこは描かないで、シルフィードを失って絶望したジェームスが視線を上げると、グァーンとエフィの結婚式の行列が見える、としたらどうだろう、などと音楽と無関係に勝手な演出を空想してしまった。
ジェームス(井澤駿)
撮影:瀬戸秀美(すべて)
マッジ役は本島美和だったが(両日とも)、魔女役を憎々しげに熱演した。マッジはあらゆる局面に登場し、この物語世界のすべてを支配していた。
シルフィード(細田千晶)
シルフィード(小野絢子)ジェームス(福岡雄大)
シルフィード(小野絢子)ジェームス(福岡雄大)
小野絢子のシルフィードと福岡雄大のジェームスというキャストでも観たが、こちらは肩の力が抜けていてほぼ完璧な踊りを見せてくれた。森のパ・ド・ドゥでも、小野絢子は泉の水を手で汲むところ、それを運ぶところなど細かいステップを加えて、登場人物の細やかな気持ちを見事に表現していた。マッジに騙されたジェームスにスカーフを掛けられて死んでいくところも、丁寧なマイムでディティールまで表情を作ってシンパシーを誘い、感動的なシーンを出現させた。
細田のシルフィードは軽く、儚げで、少し悪戯っぽくてステップは軽快で魅力的だった。井澤のジェームスは深刻な表現はしっかりできていたが、明るく解放されて本当に楽しい時をもう少し思いっきり表現して欲しいと思った。ただ全体にいえることだが、ブルノンヴィル版にしては少しスピードが感じられなかった。
シルフィード(小野絢子)
ジェームス(福岡雄大)
『Men Y Men』は、2009年、イーグリングが芸術監督を務めていたイングリッシュ・ナショナル・バレエに振付けた作品。当時、カンパニーの男性ダンサーは9人だったという。音楽はセルゲイ・ラフマニノフの「エレジー」(「幻想的小品集」より)と「コレッリの主題による変奏曲」の「主題〜第7変奏」を使用している。
舞台背後の暗部から2組の男性ペアが登場して始まる。上半身裸で黒いパンツの男性ダンサー9人が踊る。前半は4組のペアがシンクロしながら踊るパート。後半は上手から下手に流れる動きが表わされ、花束を抱えて歩くダンサーも登場した。こうした動きを中心としたパートによる2部構成だった。最後は9人のダンサーが全員で踊り、中央のダンサーが照明が落ちた舞台に手を高く上げ、そこにスポットが当たって終わった。しかしあっさりと短く、ムーヴメントもシンプルであり、いささか物足りない感じもしないでもなかった。
(2016年2月6日夜、11日 新国立劇場 オペラパレス)
『Men Y Men』
『Men Y Men』
撮影:瀬戸秀美(すべて)