クララの気持ちに寄り添いながら、スリリングな魔法世界が展開するNBAバレエ団の『くるみ割り人形』
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
NBAバレエ団
『くるみ割り人形』久保綋一:演出・芸術監督
NBAバレエの『くるみ割り人形』は、2013年から久保綋一の演出によるヴァージョンが上演されている。久保の演出は、映像を効果的にに使って『くるみ割り人形』の物語で繰り広げられる魔法を、ファンタスティックに美しくそして楽しく描き出す。
第1幕はクリスマス・イブ。ドロッセルマイヤー(マシモ・アクリ)が、法律を学ぶために留学中の甥のクリストフ に頼まれて、くるみ割り人形をクララ(竹内碧)に届ける。クリストフを大好きなクララは大喜び。プレゼントのくるみ割り人形をとても大切に扱う。クリスマス・イブの子供から老人たちまで、家族ぐるみ友人ぐるみのパーティが楽しく描かれる。
映像効果はじつに巧みで多彩。ねずみとおもちゃの兵隊の闘いのシーンから、スノーフレイクが舞う雪原のシーンまで、魔法による変幻のシーンなどはほんとうに世界が変わっていくようだった。また、ラストシーンでクリストフのクララへの手紙を映し出すところもなかなか洒落ている。 第2幕では、三匹のねずみが執念深く王子(森田維央)とクララを追いかけて来て、魔法でラタトゥイユとなって舞踏会に紛れ込んむ。そしてジンジャーおばさんの扮装をしたねずみの協力によって、巨大な毒入りのケーキを製造。これを王子やクララたちに食べさせようとするが、賢いクララに気付かれる。悪だくみに怒った王子がねずみたちを打ちのめそうとすると、クララが許してほしい、と願う。そして場面は花のワルツに替わる。こうした表現もクララの夢の世界としてのリアリティがあり、この一連の演出は、純真な少女クララの気持ちに寄り添いながら、スリリングに展開していてたいへん興味深かった。
クララ(竹内碧)王子(森田維央)
撮影/吉川幸次郎(すべて)
グラン・パ・ド・ドゥは、金平糖の精(峰岸千晶)とカバリエール(三船元雄)が華やかに踊り、クララのクリスマス・イブの波瀾万丈の夢も終わったのだった。
クララは竹内碧で全編を通して、しっかりと踊った。動きも演技も破綻がなく、少女らしい純粋さも表していた。森田維央の王子もピルエットが速くきれいで見栄えがした。峰岸千晶と三船元雄のグラン・パ・ド・ドゥも安定感があって良かったと思う。
『くるみ割り人形』はカンパニー全体が一体となって舞台を創っている様子が、舞台を観ていても目に浮かぶようで、観客にとってもまた心躍る公演である。
(2015年11月28日 東京芸術劇場 プレイハウス)
クララ(竹内碧)ドロッセルマイヤー(マシモ・アクリ)
ロシア(篠原真梨子)
クララ、王子、ラタトゥイユ
金平糖の精(峰岸千晶)カバリエール(三船元維)
スペイン
ラタトゥイユ
親愛なるクララへ・・・・クリストフより
撮影/吉川幸次郎(すべて)