ライヒの『ドラミング』を加藤訓子と平山素子がコラボレーションした、見事な舞台

愛知県芸術劇場プロデュース

『DOPE』加藤訓子(パーカッション)✖️平山素子(ダンス) スティーヴ・ライヒ:音楽

『DOPE』は、ロッテルダム音楽院を首席で卒業したという世界的に活躍しているパーカッショニストの加藤訓子と、ボリショイ・バレエのプリマ、ザハロワに振付けた『Revelation』やピアノ・デュオによる『春の祭典』の振付などで知られるコンテンポラリー・ダンスの平山素子のコラボレーションである。ともに愛知県出身ということもあるのだろうか、愛知県芸術劇場がプロデュースし、世界初演した。関東では彩の国さいたま芸術劇場で上演された。

音楽はスティーヴ・ライヒの『ドラミング』。 「真っ白な舞台とライヒのカウンター・ポイントを含むミニマルなイメージか浮かんだ」と加藤が公演パンフレットに書いているように、白く浮かぶような舞台にボンゴ、マリンバ、グロッケンシュピール(鉄琴)、脇には金属と木製のマレットがセットされていた。12人で演奏されるはずのライヒの『ドラミング』を一人で演奏するにあたって、作曲家に了解を得る際には「君が全パートをオーバーダビングして、そのうちの一つのパートを演奏するのだろう?」と見抜かれていたという。つまり、変化するそれぞれのパートを事前に録音し、リードに当たるパートをライヴで演奏するという超絶技巧ともいうべき、まさにそのスタイルで加藤の演奏が始まった。

『DOPE』さいたま芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』さいたま芸術劇場 撮影/羽鳥直志

人間の鼓動は生を受けた時に刻み始める。太古から人類に脈打つ大地のリズムが加藤が演奏するボンゴにより奏でられる。人類の始源が生まれたアフリカを想起させ、太古から今日まで生きとし生きる人びとの鼓動が交錯し、一音一音に集約され象徴となって再び身体に注入される。音が世界を生きていることを表しているのである。

『DOPE』愛知芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』愛知芸術劇場 撮影/羽鳥直志

久しぶりのソロを踊る平山は、静かに現れ、緩やかに動く。こちらは鼓動を刻む人間たちに呼応して、根源的動きを象徴しようと試みている。
リズムは、マリンバとなって天空に鼓動を刻む。平山は地に留まるように全身を使ったくねらせるような動き。
マリンバのマレットが金属となって、平山はしきりにステップを踏んで移動し、全身の動きが次第に大きくなる。グロッケンシュピールが星のリズムを刻み平山の動きが痙攣したようになり、突然転倒する。そして起き上がると再び人間を取り戻したかのような動きとなる。

照明は四方から断続的に放たれたり、フロアに美しい柵状の形を映したり、清浄な海のような青い光りを満たしたり、自然の光の変転を抽象したような美しい変化をみせた。
そして加藤がボンゴ、マリンバ、グロッケンシュピールを様々に奏で、平山の激しい動きとともにクライマックスへ。加藤は肩にボンゴを掛けて、演奏の場を飛び出して縦横に動きながら撃つ。ここまで劇場空間いっぱいに放射され続けてきたリズムが、観客の身体の隅々までみなぎりトランスした。音から動きと一体となった加藤と、動きから音と一体となった平山が交錯して、劇空間が独立した小宇宙となった。観客は、突然、宇宙旅行にワープしたかのように驚き、歓喜していた。
21世紀のダンスの一つのパースペクティヴに垣間見た、そんな感想を抱いて帰路に着いた。
(2018年2月4日 彩の国さいたま芸術劇場 小ホール)

『DOPE』さいたま芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』さいたま芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』愛知芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』愛知芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』さいたま芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』さいたま芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』さいたま芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』さいたま芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』さいたま芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』愛知芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』愛知芸術劇場 撮影/羽鳥直志

『DOPE』愛知芸術劇場 撮影/羽鳥直志

ワールドレポート/東京

[ライター]
関口 紘一

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