圧巻だった「7つの短編」の中村恩惠と首藤康之のデュエット、バレエ協会公演「クレアシオン」

日本バレエ協会「Balletクレアシオン 2017」

『くびりちどうし』田中祐子:振付、『ねこ背』近藤良平:振付、『7つの短編』中村恩惠:振付

日本バレエ協会の平成29年度の「Balletクレアシオン」では、牧阿佐美バレヱ団で踊った田中祐子振付の『くびりちどうし』、男性ダンスグループ コンドルズを率いる近藤良平振付の『ねこ背』、イリ・キリアンの薫陶を受け振付家・ダンサーとして活躍する中村恩惠振付の『7つの短編』という3作品が上演された。3作品ともに振付家自身も登場するという今日のダンサーの現場と直結しているダンスである。それぞれに意欲的な舞台だったが、今回は強い印象を受けた中村恩恵の『7つの短編』ついて書き、他の作品については次の機会を待ちたい。

『7つの短編』撮影:中岡良敬(スタッフ・テス)

『7つの短編』撮影:中岡良敬(スタッフ・テス)

中村恩恵の『7つの短編』は、7日間で構成される1週間と言う単位で生きていく私たちの生きるリズムを、7つのダンスによって表している。夏目漱石に『夢十夜』と言う小説があったが、あるいは漱石の時代は10日という単位が生活の基本だったのかもしれないが、今日の私たちは、7つの夢を見ながら「人生」という宿命の中を生きていく、と言うことになるのだろう。
『7つの短編』のダンスはじつにすばらしかった。日曜日から始まるが、舞台前中央に椅子がひとつ、スポットライトが当たっている。ダンサーが座って、人の囁き声や息をする音などの現実音が構成された音楽とともにアンサンブルが踊る。照明は暗く、ダンサーたちの衣装は全員黒だったので、身体の輪郭が判然としないところがあり、見事な振りばかりなので余計に集中力が消耗する舞台だった。先鋭な動きと様々な音源を使って綿密に融合させた音の構成というか音楽の使い方が斬新で、音だけでも鮮烈なドラマが空想できるようであり、極めて効果的だった。
圧巻は、金曜日の中村恩惠と首藤康之のデュエットと土曜日の山本隆之の踊り。中村と首藤のデュェットは、ぎりぎりまで身体を密着させた振りで、床を転げ回り、お互いに振り回す。力感に満ち満ちた圧倒的なものだった。揺るぎない完璧な表現を目指しているのであろう。
山本隆之の踊りも目を見張った。これまでのクラシック・バレエのダンサーというイメージが一新された迫力がある踊りで、これは「サターンディ」を示唆するのか、あるいは「サタディ・ナイト・フィーバー」なのかとも思わせる苛烈なダンスが展開された。

『7つの短編』撮影:中岡良敬(スタッフ・テス)

『7つの短編』撮影:中岡良敬(スタッフ・テス)

最後に、中村のパンフレットに記された言葉を引用しておこう。
「(7つの守護神のもとで)私たちが織り成す人間模様は、色彩に富んだ美しい錦のようでもあり、同時に欲や嫉妬に蝕まれ、残忍さや狂気を潜ませてもいる。繰り返される毎日の中から織りなされる綾は、言葉にならない物語のよう。存在の疼きに苛まれる剥き出しの心に夜伽を加えるように、これらの言葉にならない物語を無言のまま語ろうと思う」

ワールドレポート/東京

[ライター]
関口 紘一

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