古代エジプトとローマを巡り、絶世の美女クレオパトラの悲劇を描く、熊川哲也による最新作『クレオパトラ』

K BALLET COMPANY K バレエ カンパニー

『クレオパトラ』熊川哲也:演出・振付・台本

熊川哲也が演出・振付けた『クレオパトラ』全2幕が世界初演された。題材としてクレオパトラを扱ったバレエは、フォーキンの『エジプトの夜』が思い浮かぶ。1908年にサンクトペテルブルクで初演され、翌年には『クレオパトラ』と改題され、音楽や演出も改訂されてパリのシャトレ座で上演された。これはクレオパトラと奴隷の恋を描いた1幕物。
クラシック・バレエの全幕物を中心に活動しているK バレエ カンパニーの芸術監督である熊川は、クレオパトラを題材とした全幕バレエを創作する構想を直感的に得たという。それは当然、中村祥子と浅川紫織という優れたダンサーが、実力・人気とも絶頂を迎えつつあることなどが心中にあったからだろう。そしてその構想が決定的となったのは、19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したデンマークの作曲家、カール・ニールセンの音楽と出会ってからだ。新しい題材によるバレエを創作する場合、音楽との出会いが決定的となる。ダンスは音楽と命を共有するからである。

バレエ『クレオパトラ』は、古代エジプトの類稀な美貌の女王の物語を追っていく。弟王との相克、エジプトとローマをめぐる権力闘争に関わり合う恋愛遍歴が、比較的シンプルな構図でドラマティックに描かれる。ニールセンの音楽の哀調と独特のリズムが、古代の美女の苦悩と喜びと悲しみを観客の心に映す。
エジプトとローマという二つの文明の世界が、美術、振付などによって描き分けられる。そしてその二つの世界を結びつけ、また戦わせるのは、クレオパトラという「美」であり、「美」であるがゆえに二つの世界の融和を願う自身が破滅していく、というアンビバレンスな悲劇が姿を現してくる。熊川の演出はポピュラーな題材によって、スピリチアルなテーマに迫っている。古典的な舞踊構成ではなく、直裁に人物の内面を表す動きを使って、ドラマを表出しいく描き方で、キャラクター・ダンスの動きなども巧みに組み込んでいるようにも見えた。

撮影:小川峻毅

K バレエ カンパニー『クレオパトラ』撮影:小川峻毅

クレオパトラを演じ踊った中村祥子は、長身を生かして全身を使った見事な表現を見せ、古代と現在を行き来するかのような存在感を見せた。とりわけ、宮尾俊太郎のアントニウスとの再会のパ・ド・ドゥは素晴らしく、もう少し見ていたいと思った。宮尾も宿命的な悲恋を踊っているような表現が見え感心した。また、夫に一方的に去られてしまったオクタヴィアを踊った矢内千夏の表現力も目を惹いた。もちろん、カエサルを堂々と演じたスチャート・キャシディも優れた演技だった。男性ダンサーを振付けることが巧みな熊川の勇壮な群舞の展開も期待したが、それよりも彫像的な身体による表現の印象が強く残っている。
近年のK バレエ カンパニーは、『海賊』『ラ・バヤデール』などのスペクタキュラーな舞台が際立っているように感じられる。それはもちろん、素晴らしい舞台が作られているのだが、私個人としては次回は、世話物風というか、情感の表現に主眼を置いたバレエも見たいなどと感じている。これもまた、齢を重ねたゆえだろうか。
(2017年10月20日 東京文化会館)

撮影:小川峻毅

K バレエ カンパニー『クレオパトラ』撮影:小川峻毅

撮影:瀬戸秀美

K バレエ カンパニー『クレオパトラ』撮影:小川峻毅

撮影:瀬戸秀美

K バレエ カンパニー『クレオパトラ』撮影:小川峻毅

ワールドレポート/東京

[ライター]
関口 紘一

ページの先頭へ戻る