海外で活躍する若手ダンサーが踊る機会を広めようとする公演が会場を沸かせたBright Step 2017

〈Bright Step 2017〉

『ロミオとジュリエット』より"寝室のパ・ド・ドゥ" ジョヴァンニ・ディ・パルマ:振付ほか

「Bright Step」は、ロシア国立バレエ・モスクワの西島勇人が、海外で活躍する日本の若手ダンサーに日本で踊る機会を提供しようと、3年前に立ち上げたプロジェクト。公演のほかワークショップも開催しており、「日本で最もバレエを身近に感じられるダンサーグループ」を目指している。
夏に行ってきた公演は今年で3回目。代表の西島をはじめ、海外10カ国のバレエ団から計14人が参加した(所属のバレエ団名は公演時のもの)。今年のモスクワ国際バレエコンクールで、シニア部門・男性の部で金賞を受賞した大川航矢(タタールスタン国立カザン歌劇場バレエ団)と女性の部で銅賞を受賞した寺田翠(同)がそろって出演するとあって、話題性は高かった。また、副代表でオランダ国立バレエ団の奥村彩と、ハンブルク・バレエ団の菅井円加が、それぞれ今年ソリストに昇格したというニュースは、「Bright Step」が優れた若手を集めた公演であることを示すものでもあった。

©7プロジェクト

〈Bright Step 2017〉©7プロジェクト

公演は2部構成で、11作品が上演されたが、古典と現代作品がほどよく組み合わされていた。ACT1は、3人の女性ダンサーが踊る『海賊』第1幕より「オダリスク」で始まり、続いて菅井円加と関野海斗(フランス国立マルセイユ・バレエ・ジュニアカンパニー)が『海賊』第1幕より"奴隷のグラン・パ・ド・ドゥ"を踊ったが、これが秀逸だった。ガラ公演では技の披露で終わりがちな演目だが、菅井は典雅なテクニックに加えて、奴隷に売られる哀しみを全身から滲ませて、観る人の心に訴えた。豊かな表現力を身に付けてきたようだ。

『海賊』菅井円加、関野海斗

〈Bright Step 2017〉『海賊』菅井円加、関野海斗 
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シディ・ラルビ・シェルカウイ振付『Mononoke』を踊った加藤三希央(ロイヤル・フランダース・バレエ団)は、しなやかに身体を操って床を転げ、不気味な物の怪の雰囲気を醸して異彩を放った。一転して、西島勇人振付の『Buddy』は陽気でユーモラスな作品。西島と大川航矢が、互いに挑発し合ってジャンプや回転技を競う様が楽しめた。
『ラ・シルフィード』第2幕よりのパ・ド・ドゥを踊ったのは北野友里夏(ポーランド国立劇場バレエ団)と高橋裕哉(ハンガリー国立バレエ団)。二人とも卒のない演技だったが、北野の妖精としての細やかな演技が高橋をリードしていたように感じた。

『海賊』菅井円加

〈Bright Step 2017〉『海賊』菅井円加 
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『海賊』菅井円加

〈Bright Step 2017〉『海賊』菅井円加
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『Mononoke』加藤三希央

〈Bright Step 2017〉『Mononoke』加藤三希央 
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『Mononoke』加藤三希央

〈Bright Step 2017〉『Mononoke』加藤三希央 
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『Buddy』西島勇人、大川航矢

〈Bright Step 2017〉『Buddy』西島勇人、大川航矢 
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『Buddy』西島勇人、大川航矢

〈Bright Step 2017〉『Buddy』西島勇人、大川航矢 
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ACT2は淵上礼奈(英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)と福田昴平(ロシア国立ノヴォシビルスク劇場バレエ団)による華やかな『ゼンツァーノの花祭り』よりグラン・パ・ド・ドゥで始まり、コンテンポラリー作品が得意な山本勝利(ドイツ・キール州立劇場)は自作の『Puppet』で独自の身体感覚を構築してみせた。日本初演になるジョヴァンニ・ディ・パルマ振付『ロミオとジュリエット』より"寝室のパ・ド・ドゥ"を迫真の演技で踊ったのは石崎双葉(ヒューストン・バレエ団)と高橋裕哉。石崎が高橋に拳を振り上げたものの、すがるように抱き合ってしまう冒頭から引き込まれた。高橋が石崎を空中で水平に回転させて抱き留めるリフトが繰り返されるたび、恋人たちの哀しみや絶望感が増幅されていった。マクミラン作品を思わせるような、インパクトの強い作品だった。

『ロミオとジュリエット』石崎双葉、高橋裕哉

〈Bright Step 2017〉『ロミオとジュリエット』石崎双葉、高橋裕哉 ©7プロジェクト

華麗な技が散りばめられた『グラン・パ・クラシック』では、加藤三希央がシャープな跳躍や回転技を披露し、奥村彩も抜群のバランスで確かなポアントワークを見せた。これで、奥村の表情にもう少し柔らさが備わればと思う。
マーシャ・コラール振付『said and done』で、息の合ったデュエットを展開したのは菅井と西島。心の掛け合いを身体のやりとりに転換してみせるように、二人の絶妙な身体のコントロールが冴えた。 最後を飾ったのは、寺田翠と大川による『タリスマン』よりグラン・パ・ド・ドゥ。大川のとびきりダイナミックな跳躍や寺田の端正な踊りは見応えがあり、モスクワのコンクールのメダリストにふさわしい演技で会場を沸かせた。
「Bright Step」の公演は、初回は手探り状態だったようで、仲間内の同窓会的な雰囲気が感じられたが、今回は会場も大きくなり、中身も充実してきた。連続出演のダンサーや初登場のダンサーなど様々だったが、これほど多彩な日本人ダンサーが、これほど多彩な世界のバレエ団で活躍していることに驚かされもした。なお、「Bright Step」は、バレエ団やダンサーを取り巻く現在の日本の環境を海外の水準に引き上げたいとのヴィジョンも掲げている。大いなる目標に向かって、着実に歩みを進めて欲しいと思う。
(2017年7月30日 新宿文化センター)

『said and done』菅井円加、西島勇人

〈Bright Step 2017〉『ロミオとジュリエット』石崎双葉、高橋裕哉 ©7プロジェクト

『said and done』菅井円加、西島勇人

〈Bright Step 2017〉『said and done』菅井円加、西島勇人 ©7プロジェクト

『said and done』菅井円加、西島勇人

〈Bright Step 2017〉『said and done』菅井円加、西島勇人 ©7プロジェクト

『タリスマン』寺田翠、大川航矢

Bright Step 2017〉『タリスマン』寺田翠、大川航矢
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『タリスマン』大川航矢

〈Bright Step 2017〉『タリスマン』大川航矢 
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『タリスマン』大川航矢

〈Bright Step 2017〉『タリスマン』大川航矢 
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〈Bright Step 2017〉©7プロジェクト

〈Bright Step 2017〉©7プロジェクト

ワールドレポート/東京

[ライター]
佐々木 三重子

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