音楽とドラマが舞台空間で見事に融合したグリゴローヴィチ版『ジゼル』

The Bolshoi Ballet ボリショイ・バレエ団

"Giselle" choreography by Jean Coralli, Jules Perrot and Marius Petipa
Production and choreographic version by Yuri Grigorovich
『ジゼル』ジャン・コラーリ、ジュールス・ペロー、マリウス・プティパ:原振付、ユーリー・グリゴローヴィチ:制作・振付改訂

今年はボリショイ・バレエ団の初来日から60年目に当たるという。初来日は1957年で、東京の公演会場は新宿コマ劇場と両国国際スタジアムだった。新宿コマ劇場は2008年まで賑わったが、現在は建て替えられ新宿東宝ビルとなっている。当時、私にもロシア(旧ソ連)から未体験の「美」が来る、という感覚があったことをうっすらと記憶している。さらに70年代になるとリュドミーラ・セメニャカに恋い焦がれ、初めてロシアに取材に行った時、クラスを受けている彼女をしつこく撮影し、ロシア語で声をかけられた。もちろん、意味はわからなかったが(良い意味ではなかったかもしれないが)世界の舞姫に初めて声をかけられて有頂天になったことも覚えている。閑話休題。

撮影/瀬戸秀美

ボリショイ・バレエ団『ジゼル』撮影/瀬戸秀美

撮影/瀬戸秀美

ボリショイ・バレエ団『ジゼル』撮影/瀬戸秀美

今回のボリショイ・バレエの来日公演は、2017年にロシアが推し進めるグローバルなプロジェクト「ロシアン・シーズン」の皮切り公演でもある。総勢230人が来日した引っ越し公演で、もちろん、ボリショイ・オーケストラも来日しており、広島から東京、大津、仙台、大阪まで全15公演が行われた。上演されたプログラムは、グリゴローヴィチ版『ジゼル』『白鳥の湖』、アレクセイ・ラトマンスキー版『パリの炎』という全幕3演目だった。
まず、ユーリー・グリゴローヴィチ版の『ジゼル』から観た。ジゼルはエカテリーナ・クリサノワ、アルブレヒトはウラディスラフ・ラントラーノフ、ミルタはアリョーナ・コワリョーワだった。
『ジゼル』はボリショイ・バレエの得意演目のひとつだ。特に第2幕の月光に浮かび上がるウィリーの群舞は、抗い難い魅力があり、独特の照明の色調はボリショイ・バレエでしか出すことができない、と言われる。この独特の月の光の中に浮かび上がるウィリーたちの踊りは、ダンサーたちが常日頃リハーサルし踊っているオーケストラの奏でる音楽と合体して、観客を優しく包み、苦もなく別世界へと連れ去ってしまう。まさに、ボリショイ・バレエの伝統が最も良い形で息づいているバレエである。
主役のクリサノワとラントラートフの見事なダンスもさることながら、なんといってもアンサンブルの安定感のある音楽性、優雅な動きとその絵画的な美しさは絶妙だ。ダンサー一人一人がこのバレエの真髄を完璧に理解して踊っているのである。音楽とドラマが舞台空間で完璧に融合するグリゴローヴィチならではの振付の極北のひとつがここにある、と言っても過言ではあるまい。アンサンブルがあたかも1人のダンサーであるかのように有機的かつ優美に動き、主役のダンスを際立たせている、と言えばいいのかもしれない。過去にはグリゴローヴィチの振付に違和感を覚えることもなかったわけではないが、今年1月に90歳を迎えたというマエストロに完全に脱帽である。
(2017年6月5日 東京文化会館)

ボリショイ・バレエ団『ジゼル』撮影/瀬戸秀美

ボリショイ・バレエ団『ジゼル』撮影/瀬戸秀美

ボリショイ・バレエ団『ジゼル』撮影/瀬戸秀美

ボリショイ・バレエ団『ジゼル』撮影/瀬戸秀美

ボリショイ・バレエ団『ジゼル』撮影/瀬戸秀美

ボリショイ・バレエ団『ジゼル』撮影/瀬戸秀美

ワールドレポート/東京

[ライター]
関口 紘一

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