セネガルのドラムと和太鼓や横笛とともに10人のダンサーが踊り、美しいイマジネーションを描き出した新作『狩月記』

谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み」

『ロマンティック組曲』谷桃子:振付、伊藤範子:バレエミストレス、『Pas de Quatre』日原永美子:振付、『B--MOTION』岩上純:振付、『狩月記』YAS-KAZ:演出・構成・作曲・演奏、岩上純:振付

カンパニーの創設者である谷桃子の三回忌にあたる4月26日に、谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み〜」が開催された。

Part 1-1では、1953年に谷桃子がショパンの曲を選んで振付けた『ロマンティック組曲』が上演された。ショパンの「プレリュード」「ノクターン」「エチュード」「ワルツ」などが白石光隆のピアノ演奏により踊られた。「ノクターン」のパートを何度か踊ったことのある伊藤範子がミストレスを務め、それぞれの曲の特徴を生かした師の感性を尊重して上演された。今回は「ノクターン」を佐藤麻利香と斉藤拓が踊っている。
Part 1-2は日原永美子が振付けた『Pas de Quatre』。タリオーニを佐々木和葉、チェリートを上島里江、グリジを雨宮準、グランを加藤未希が踊った。Part 1-3は、岩上純の振付による『B--MOTION』。今井智也、馳麻弥ほかが踊った。

『ロマンティック組曲』 撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

『ロマンティック組曲』
撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

『ロマンティック組曲』

谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み」
『ロマンティック組曲』撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

『Pas de Quatre』

谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み」
『Pas de Quatre』撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

『B-MOTION』撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み」
『B-MOTION』撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

Part 2に上演された『狩月記』は、なかなか興味深い作品だった。民族音楽から現代音楽などジャンル横断的に新しい領域を切り開き、国際的に活躍しているYAS -KAZが演出・構成・作曲し、演奏にも参加した最新作である。
YAS -KAZは、大岡信の『狩月記』にインスピレーションを得て創作したという。音楽はYAS -KAZが作曲し、彼が常々関わっているセネガルドラマーで構成されたスペシャルパーカッショングループと和太鼓を中心とした東京打撃団が演奏。背景に大胆な着想の映像を使用し、谷桃子バレエ団のダンサー10人が踊った。振付は岩上純。

『狩月記』 撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み」
『狩月記』撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

まず、背景全面に星空が映されるが、星が次第に数が増えて密度が高まり、ついには大きな星雲となり、超新星の誕生のような情景となる。
そして女性ダンサーが1人メタリックなシルバーの全身タイツを着けて踊り、セネガルのドラマーが1人付かず離れず演奏しつつ従う。もう1人の女性ダンサーも同じ形で踊る。続いて男性ダンサーたちの踊りとなる。ダンサーたちはすべて目元にもシルバーを塗り、男性は上半身裸で胸にもシルバーを付けていた。異星人か人間が空想した月の住人かとも思わせる。冒頭から「誕生ということの神秘」が感じられる演出だ。また、海が旧約聖書の「出エジプト記」のように二つに割れ、さらに合体する壮烈な映像も背景に映される。
ダンスは概ね音楽に応じて、女性の踊りと男性の踊りに分けられて踊られることが多かった。三体(女二体、男一体)のロボットの踊りでは、メタリックな手袋を着けて人形振りを踊っていたが、さらにそのロボットを操るロボットが登場しておもしろかった。また、このシーンの音楽は水が湧きだす音や櫓を漕ぐ音などで構成されており、印象深く新鮮に聴いた。

『狩月記』

谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み」
『狩月記』撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

『狩月記』

谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み」
『狩月記』撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

和太鼓と横笛の音楽とセネガルのドラムとの構成、コラージュも巧みで不思議なかつて感じたことのないような共有するリズムが脈打っているかのようであり、感心させられた。和太鼓の演奏では、和を感じさせる踊り、セネガルのドラマーの演奏では、アフリカンな踊りの動きが組み込まれていたが、それほど顕著ではなく、音楽に即した動きで構成されていたが、ダンスの動き自体は割合まともであまり冒険はなかった。
しかし、音楽とヴィジアルのイメージが美しく、人類の世界とはまた異なった幻想世界を表して秀逸だった。 YAS -KAZは山海塾や森山開次、あるいはMomix、ISOにも楽曲を提供している。しかし、師の谷桃子が創作を重視していたとはいえ、古典バレエのカンパニーと目されている中、かなり大胆なチャレンジだったと思われる。次期芸術監督に改めて期待が高まった。

『狩月記』

谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み」
『狩月記』撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

『狩月記』

谷桃子バレエ団特別公演「師の命日に贈る〜過去・現在・未来への歩み」
『狩月記』撮影/スタッフ・テス(株)谷岡秀昌

ワールドレポート/東京

[ライター]
関口 紘一

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